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「あれ、は……たまたま、タマネギが多かったから、つーか目に入ったからで」


言い訳を口にすれば、伸びてきた筋張った指が俺の顎を強引に掴み、そのまま兄貴のほうへ顔を向かせられた。なんか口から心臓とか出そう。
なのに兄貴のやつ、いつもの無表情が少し崩れて口角が上がってやがる。


「泣いたんだろ? 目ぇ真っ赤なんだよ」

「――っ!」

「タマネギ理由にして泣くとか、ちっちぇプライド」

「うっ、うるさいっ!」


顎を掴まれたまま叫んでみるが、きっと真っ赤に染まった顔でなにを言っても迫力なんて欠片もないだろう。
現に兄貴は愉快そうに口角を上げつづけてやがる。


「まだ結果も分かってねぇんだから泣くんじゃねぇよ。雄樹が赤点免れたときは、約束通り連れてってやる」

「……でも、もう絶望的じゃんか」

「だからそう簡単に諦めてゴタゴタ言ってんじゃねぇよ、うぜぇな。もし赤点だったときはそんときでそんときだろうが」

「え? ……なに、どういうこと?」


フンッと笑った兄貴が、どこか得意げに見える。
一体なにがそんなに自慢げなのか、まったくもって分からない。


「もし雄樹が赤点だったそんときは、惨めな弟のために買い物に連れてってやるよ、この俺がな」

「……え」


なに、それ。嘘、じゃない?
ゆっくり自分の頬をつねる。痛い。普通に痛い。


「えっ、なんっ、なっ」

「てめぇよ、こっちに来たときから荷物少ねぇだろ? つーか私服もあんま持ってねぇしよ。だから服でも買ってやる、それで満足だろ?」

「まん……ぞく、です」


満足どころじゃねぇよ。なんだコイツ。やっぱ俺の兄貴じゃないかも。
自分の頬をつねったまま、さらに力を込めてみるがやはり痛い。あぁ、夢じゃない。


「兄貴……ありがと」

「あ? 礼を言うのはまだ先だろうが、変なやつ」


愉快そうに上がる口元が目にくっきりと残っていく。きっと俺は兄貴のそれ以上に心弾ませ快然たる表情を作っていただろう。
この場にはいない雄樹に感謝をしつつ、このさいもう赤点でもそうじゃなくても、テストが帰ってきたら思いっきり労ってやろう。俺は密かにそう決意した。




 


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