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「おい」

「……ん……?」


くっきりとした明りが瞼を射す。まだ覚醒しきれてはいない脳を回転させて、俺は上半身を起こした。
ふいに隣を見れば、怪訝な顔をした兄貴がいる。あれ、俺……ずいぶん寝てた?


「なんだよ、あれ」

「え? ……あー……うん、まぁ」

「全部食えっつーんじゃねぇよな?」

「いやいや。兄貴、俺の料理食べれないじゃん。ちゃんと全部食うから、大丈夫」

「……はぁ?」


ぐーっと背伸びをして、取り忘れていたエプロンを外し、ラップを巻いた大量の料理の前に立つ。
どうしよう、作りすぎたかもしれない。何日持つかなぁ……つーか弁当とかにも詰めて……。


「どうしたんだよ、これ」

「え、あー……いや、別に。なんか突然、たくさん作りたいって衝動に襲われて……」


我ながらひどい言い訳だ。兄貴もそう思っているのだろう。やはりまだ怪訝な顔で俺を見ている。

それでも正直に話してやるほど子供でもないので、俺はさっさと料理の一つに手を伸ばす。
とにかく食べるか、うん。

しかし兄貴が大人しく引いてくれるはずもなく、料理を持つ俺の手首をがっしりと掴んできた。驚いて一瞬肩が揺れた。


「言え。なんだこれは、どうして作った」

「……」

「おい」

「……笑うから、やだ」

「はぁ? 笑わねぇから言え」

「……」


いや、兄貴のことだ、絶対に馬鹿にする。「はっ、ばっかじゃねぇの」とか言うに決まってる。
言い淀む俺に舌打ちをこぼす兄貴が、無理やり料理から手を離させた。
そのまま手首を上へと引っ張られ、バランスの崩れた体がぐらりと揺れる。

かと思えば抱えられていて、恥ずかしさで顔を赤くしている間もなくソファーの上に座らされた。


「なに……」

「こっちのセリフだろうが。おら、言え」

「……なんで」

「なんで? 無駄に作って一人で食うとか言ってる馬鹿が、正当な理由で食費使ってんのかどうか調べるために決まってんだろうが」


ぐさり。真っ当な意見が俺のこめかみを打ち抜いた。




 


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