正直言いたいことは山ほどある。が、そこはあえてスルーして、俺は他の科目に移行した。
あとは大体暗記物だし、国語を教えるとか無理だ。直感でいけ。漢字は覚えろ。
なんて投げやりになりつつもバイトと勉強を両立させて帰れば、なぜか兄貴が飯を作っておいてくれていたりする。
雄樹に感謝しつつ一人で食べる夕飯だが、寂しくはない。どこかで女と遊んでいるのか不良と喧嘩しているのか、まぁどちらでもいいが、この場にはいない兄貴が近くに感じられた。
あぁ、どうしよう。俺、今人生の絶頂期かも。
「それではテストを開始します。…………はじめっ」
そして一週間なんてあっという間に過ぎてしまえば、久しぶりの教室で俺と雄樹はテストを受けていた。そう、受けていたんだ。
カリカリと爽快なペンの走りなんてほんの数人しかいないけれど、問題の内容からして雄樹が赤点を免れることは確実だ。
なのに、なぜ。
そっと、俺は手を上げる。
「ん? 朝日向、どうした?」
「……先生、すみません」
なのに、なぜなんだ、雄樹。
「そこで寝てるアホを起こしてください」
どうしてお前は寝ようとしてるんだよ!
嫌々ながらも担任が雄樹を起こすが、やつは船をこきながら問題を解いていた。あぁ、もう無理かもしれない。
それが今日一日つづいたとき、俺はもう絶望も呆れもなにも感じてはいなかった。だってアホだもんな、雄樹は。
しかし雄樹はそんな俺の心情を察することはできなかったのだろう。いや、その前に裏で遊園地の入場券が掛けられているなんて知らないのだろう。
だから俺はそんな雄樹とさっさと別れ、バイトもないので家へと帰る。
当然、兄貴の姿もない家に帰ってすぐ冷蔵庫を開け、黙々と料理をしつづけた。
あ、なんかタマネギが沁みて涙が……。
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