とにかく風呂に入ってしまおうと、俺は台所に立つ兄貴の姿に慣れないまま着替えやらを準備して脱衣所に向かった。
お湯を張ろうかとも思ったが、面倒くさいのでシャワーにする。当然のんびりできるわけもないので普通に終えて上がってみれば、野菜炒めとご飯、味噌汁をがっつく兄貴がいた。
「……じゃ、先に寝るわ。おやすみ」
本当は、少し話したい。
仲が改善されたからって、兄貴が帰ってくる日はまだ少ない。
こうして一緒にいられる時間をもっと大切にしたい。
兄としての姿を見れるのは、弟の俺だけなんだって実感したい。
だけどそんなことを、素直に言えるほどまだ、俺は可愛げもない。
「おい」
「え?」
なのに、急に呼び止められてしまった。
嬉しい反面、やはり慌てる。ぎこちない表情をそのままに振り返れば、やはりやつは不機嫌そうな顔をしている。
「少し付き合え。座れ」
「……」
なんで、なのかな。
こうして、本当にたまにだけど、兄として接することがある。それが嬉しくて堪らないのに、素直になれない自分が歯がゆい。
ゆっくりとした歩調で近づいて、恥ずかしさから冷蔵庫のほうへ向かう。コップを取り出してお茶を注ぎ、すでに食べ終えたやつの向かえ側に座った。
「……」
「……あー……なんか、さぁ」
「あ?」
「うん、だから……えーと、雄樹が、テストで赤点ばっかで」
「あぁ」
俺が座ったからといって兄貴が話を振る訳もない。ので口から出る言葉をなんでもいいから吐き出しておく。
話題に乏しい俺にとって、正直辛い。
「だから俺が勉強見ることになって」
「へぇ、お前、他人の勉強見れるほど頭良いのか」
「なっ、赤点取らないくらいは、できる……し」
「へぇー。で?」
「う、……うん、で。なんか、雄樹が赤点免れたら、仁さんが遊園地の……」
あ、そっか。
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