聞けば、どうやら恋人である仁さんに「今度のテストで赤点取ったらバイト禁止」と言われたらしく、勉強を見てくれそうな俺に目をつけたらしい。
体育祭も終わって高校初のテストも近いことは近いだろうが、中学でも一桁点数を取るようなやつにどう勉強を教えればいいんだ、俺は。
「あー、とりあえずさ、どこまで分かってんの?」
「え? 足し算と引き算と、あと簡単な掛け算と割り算!」
「……うん……うん」
なにも言えずに頷いておく。アホすぎて言葉も出ないとはこのことか。
とりあえず雄樹が珍しく携えた教科書をパラパラめくる。
最初から教えりゃいいのか、俺は?
「て、ゆーかさ。テストって……」
「うん、来週だよー」
「……」
教科書投げ捨てたろうか、アホが。
「あははっ! ははっ、腹いってぇ……っ!」
「ちょっと仁さん、笑ってないでくださいよ!」
いつのまにか配られていたテスト範囲だけでも頭に叩き込ませようと、俺が学校でどれだけ苦労したかを仁さんに説明すれば、彼はひーひー腹を抱えながら爆笑している。
作りかけのナポリタンがいい具合にできあがっていたので退かせば、彼は笑いながら礼を言った。
「はーっ、あいつ、マジで馬鹿だなー」
「……恋人なんだから仁さんが面倒見てくださいよ、俺じゃ手に負えませんって、マジで」
「あー、いや。高校んときの勉強なんて覚えてねぇよ。だからまぁ、頑張れ」
「頑張れ、じゃないですってば」
げんなりしながらお粥を完成させてアホを呼ぶ。すぐにやってきたアホが元気よく運びに行く姿を見て、バイト禁止だけは阻止してあげたいとも思う。思う、が。
「……あんなアホ、どうしろってんですか」
「……なんか悪い」
二人で雄樹のアホっぷりに肩を落とす。が、すぐに俺は顔を上げた。
「隆二さんとか、豹牙先輩は?」
「あー……まぁ、頭はいいけどよ、教えると思うか?」
「……うん、難しいかもしれないかもしれない」
「どっちだよ」
自分で言っておいてなんだが、頼みの綱はもうどこにもない気がしてきたぞ。
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