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「それで、会いたい人ってどんな人なんですか?」

「歳は十六で、男の子。それしか知らない」

「……なかなか難しいですね」

「えぇ、だからもうこのさい、貴方でもいいかなって思ってるところよ」

「あはは、じゃあ隣、失礼しますね」

「どうぞ」


そこまで必死に探すつもりでもなかったのだろうか、それとも疲れてしまったのだろうか。
思惑を隅に置いて、俺は彼女の隣に腰を下ろす。おもむろに彼女の手が伸びてきて、そっと握った。


「お孫さんですか?」

「えぇ、そうよ。一度も顔を見せに来ない、可愛くない孫よ」

「へぇ、なにか事情があるとか?」

「さぁ……どうかしら。私には分からないわ。でも会ったら言ってやるつもりよ」

「? なんて?」


フンッ、と意気込んだ彼女がまたも声を頼りにこちらのほうへ顔を向ける。
やはり実年齢よりは若く見えるだろう容姿に、顔も覚えていない母親が重なる。
きっと母親的存在がいないから、そう思ってしまうのだろう。


「この世はアンタが思ってるほど、厳しくもないし甘くもない。けど、山のような幸せがゴロゴロ転がってるのよ。だからいっぱい傷ついて、そのぶん大人になりなさい――ってね」

「……なんだか、すごく重みがあります、ね」

「そう? いえ、そんなことないわ。長く生きてきた私が言うんだもの、重くはない。けど、軽くもないわね」

「はい……そうですね」


歳の差、というのだろうか。
そんな簡単なものではない。歩んできた人生の長さ、というのだろうか、分からない。
だけど感じるのは、玲央のような気高さとただただ真っ直ぐな生き方。それがひしひしと伝わっていた。


「あ! 梶原(かじわら)さん! こんなとこまで逃げてたのね!?」

「あら、見つかっちゃった」


バタバタと慌ただしい看護師が俺と彼女のほうへ近寄る。梶原、という名字なのか、俺は彼女の手をそっと解いた。
看護師が梶原さんと俺を叱って、だけど彼女が反省もせずに俺に「また来なさいね」なんて言うものだから、当分来ないとは、言えなかった。




 


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