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「朝日向さーん、朝日向小虎さーん」

「はい」


白を基調とした清潔感のある待合室で名前が呼ばれた。
俺はすぐに立ち上がって看護師のもとへ寄る。もう何度も見るその顔を互いに見合えば、笑顔とは違う表情が浮かんでいた。

薬品の香りが染みついた診察室に入れば、白衣を羽織った彼が笑顔で俺を出迎えてくれる。


「久しぶり、元気だったかい?」

「お久しぶりです。まぁまぁ、かな」


苦笑を浮かべて肩を竦める。彼はそんな俺を見て、にこりと柔らかな笑みを浮かべた。


親父が死んですぐ、俺は兄に引き取られる前、親父の弟であるおじさんに引き取られていた。
そのとき念のためと判断して、おじさんは俺を入院させたのだ。そのときすでに俺がこちらに来ることは決まっていたらしく、ずっと同じ担当医の其川(そのかわ)さんが面倒を見てくれている。
面倒というよりは勉強なんかや、医療業務とは一切係わりのないところまで見てくれていたのだから、正直頭は上がらない。


「へぇ、お兄さんと。じゃあ仲直りできたんだね?」

「仲直り……とは違う気がしますけど、でも、以前よりはずっと良くなった……かな」

「そっか。うん……そっか、良かった」


精神科医である其川さんが微笑む。彼は俺と兄の仲が思わしくないことは知っていたし、それをどうにかしたい俺の気持ちも知っている。
だから俺以上に微笑んでくれることが単純に、嬉しかった。


「でも心配してたんだ。二週間に一度は来なさいって言ってるのに、小虎くん全然来ないんだもの」

「あはは、はい、すみません。バイトが忙しくて」

「あぁ、カシスト……だっけ? なんか最近よく噂を聞くなぁ」

「え? 噂?」

「シックなバーなのに、お粥が人気だって噂」

「……それ、俺です、作ってるの」

「えぇ!? あ……あははっ! あ、そうなんだ?」

「……はい」


口に手を当てて笑う其川さんから目を逸らせば、彼はくすくすと笑いつづけていた。




 


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