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「なんだ、よ……それ……なんだよ、それ……っ」


なぁ、アンタって人はどこまで自分勝手で我儘で、気ままで自己中心的で、ひどく一方的で。
そのくせそこに芯なんて通すから、どっしり腰を据えて生きているから気高くて、目が離せないほど畏怖の念を起させる。

あぁ、アンタって人は――。


「……あ? おい、なに泣いてんだよ」

「うっ、せー……お前なんか……お前なんかなぁっ、許したりしねーんだからなぁっ!」

「……はっ、いいぜ、上等じゃねぇか」


本当に獣みたいに喉を鳴らして兄が笑う。
俺はやっと込めていた力を抜いて、兄の胸倉から手を離した。同時に離れていく兄の手を少し惜しいとも思う。

だけど次の瞬間、兄が落ちていく俺の手を握って自分のほうへ引き寄せた。


「これからはそうして言いたいことは全部言え。我慢はもう、すんじゃねぇよ」

「……なっ」

「分かったら風呂入って来い。その情けねぇ面、しっかり洗ってこいよ?」


くくっ。また獣みたいに兄が喉を鳴らして笑う。
その笑顔を見たとき俺はやっと理解した。

この瞬間、今まさにこのとき……俺と兄の関係は変わったのだと。


「……その、情けない面したやつの兄だろうが、アンタは」

「はっ、違いねぇな」


どこまでも愉快そうに目の前の獣は笑っている。
そんな表情が俺にも移ったのだろう、いつのまにか俺の口元は馬鹿みたいに緩んでしまっていた。
俺の笑顔を見た兄がさらに笑えば、俺もまた、さらに笑ってしまう。

ただひたすらに夢見ていた光景が、そこにはあった。




 


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