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そうしてやけに騒がしかった今日のバイトは終わり、なぜか隆二さんのバイクで家まで送ってもらった数十分後、兄貴が帰ってきた。
普通に驚いてリビングで固まるが、兄貴は気にするでもなくこちらに近づく。
若干、いや不機嫌な兄貴相手になにか言えるわけでもなく、今まさに風呂に入ろうとしていた体をゆっくり引いた。


「あの、……お風呂、先にどうぞ」

「……」


乱闘騒ぎ以来、兄貴は俺が部屋にいたとしても殴ることはなくなった。
飯も、まだかじる程度だが食べてくれている。

ただ……正直、俺が求めているような兄弟像では、決してなかった。

互いに、いや俺が気まずい空気をさらして遠慮して、殴られないと分かっていても兄がいれば部屋に篭り、いないときでも物音に敏感で。
正直、兄貴もいい気分ではないだろう。

だけど今日も今日とてなにか言えるわけでもなく、俺は部屋に引きこもるため背を向けた。


「おい」


が、兄貴に呼び止められてしまえば振り返るしかない。
時間をかけてそちらを見れば、かなり不機嫌な様子。いつ、その拳が飛んでくるかもしれない、そんな空気。


「あのな」

「は、はい……っ」

「……チッ」


唐突にされた舌打ちに表情が曇れば、面倒くさそうに兄貴が頭のうしろを掻く。
かと思えば俺の腕を掴み、リビングにあるソファーの前まで引っ張るとそこに座らせてきた。無理に肩を押されたので膝がゴチンッなんて音を立てて床につく。痛い。

そんな俺になにか反応するでもなく、兄貴はソファーに腰を下ろす。
俺は床で、兄貴はソファー。その光景はまさに俺たち兄弟をあらわしている図だったことだろう。


「てめぇよ、俺が前に言ったこと覚えてんのか?」

「……え、はい」

「だったらなんで変わってねぇんだよ。あ゛?」

「……」


やはり、いい気分ではなかったのだ。
俺がもし兄貴の立場であれば、きっとそう感じていたと思う。

だけど、だからって……それを言う勇気なんて持ち合わせてはいない。




 


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