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「てめぇは言ったな。俺に兄貴面かまして世話しろよってな」

「は、い……」

「なら、」


言葉が落とされるたびに顔が下を向く。
そうして俯いてしまうが、言葉の波が止まることはなかった。


「てめぇも弟面かまして、少しは可愛げでも見せてみろ」

「……は?」


なのに俺の顔が限界まで俯いたそのとき、兄貴はありえない言葉を放った。
すぐに上がった視界が不機嫌そうに煙草を吸う兄を捉える。


「てめぇは俺がなにも言わなくても通じるとか、んなこと思ってんのか? そんな人間この世にいる訳ねぇだろが」

「……」

「言いたいことがあるなら言え。それが世話される人間の、てめぇの義務だ」

「……」


ぐるぐると、なにかが頭の中を飛び交っている。
それがちゃんとした形になることはなくて、でも必死になろうとしている。
それらが互いにぶつかれば、心地のいい音がした……そんな気がした。

そんな気が、したんだ。


「……で……っ」

「あ?」

「なんっ、で……っ」


言葉では表現しきれない心地のいい音色が、なんどもなんども頭の中で生まれていく。
それが溢れることなんてなくて、生まれては俺の心に沁みて、生まれては俺の心に沁みて。


「なんで……っ! そ、な……こと……っ!」


心に沁みて、声になる。


「なんで、俺のこと、嫌いなくせにっ! そんなこと、言ってくれんだよっ、世話する、なんて、言ってくれたんだよ……っ」

「てめぇが言ったんだろうが」

「なんで、素直に聞いてくれんだよっ!」


兄貴の前じゃ緩みやすい涙腺がじわりと涙を吐き出した。それがポタリと膝の上に落ちていく。広がった染みは布越しに肌を濡らした。兄貴の手が、そんな俺の胸元を掴む。


「てめぇが言ったから。それじゃ不満か」

「……っ」


そんなの、決まってる。


「不満じゃ、ねぇよっ、ばかぁ……っ!」


溢れてしまった涙でぐしゃぐしゃになった顔を気にすることなく、俺は兄貴に言ってやった。




 


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