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声のほうへ振り向いて、あ、なんて声が口から出る。
そこにいたのはカシストにも不釣り合いな女の子、以前俺が看病をした――カシストに客を呼び込んだ彼女だったからである。


「あは、やっぱり虎くんだ。久しぶり」

「あー、はい。久しぶり、です」

「やだな、普通でいいよ。敬語使われるほど、私偉くないんだしさ」

「……あ、うん」


あれ?
なんだろ。なんか、前と雰囲気が違う?
親しげに話してくれるからだろうか?
つーかなんで名前を……?

俺は彼女を見つめて固まったまま。そんな俺を見ていた彼女はくすりと微笑んだ。


「あのときは本当にありがとう。私、泉って言います」

「い、ずみ……ちゃん?」

「うん、そうだよ虎くん」


にっこり。
可愛らしいお花でも飛びそうな柔らかな笑みに、いつぞやの彼女とぴったり重なる。
それと同時に、考えたくもない疑問が浮かんだ。

まさか、泉って――。


「あれ、玲央? 珍しいね、ここにいるの」

「……あぁ」


ピターン! なんて音でも立てて、俺の頭の中ではパズルのピースらしきものがはまりやがった。
泉ちゃんが兄貴に普通に接して、いや、玲央……と、名前で呼んで……。


「だから混んでるんだね。玲央がいるとこはいっつも混むもん」

「……そうだな」

「それより玲央、このあいだ忘れていったよ。はい、これ」

「……あー、わりぃ」


はい。そう言って泉ちゃんが兄貴に渡した物は、キラキラと輝くシルバーアクセ。
おい、待て。忘れていったって……こと、は。

――つまり、だ。
よく帰ってこない兄貴は、だから、その……泉ちゃんの家に行って、過ごしてたってこと……か?

ぎゃー! なんなの! なんなのそれ! 彼女がいて家まで行ってるくせに、その彼女の前で堂々と両脇に女の子って! 浮気! 浮気者!


「ああ、あ、兄がいつもご迷惑を……っ」

「え?」


そんな泉ちゃんが居たたまれなくなってしまい、俺は動揺を隠さず兄貴の代わりに謝罪した。
泉ちゃんは驚いていたが、本当に謝らせてくれ。こんな最低な兄貴ですみません。


「あ、兄弟なの?」

「――へ?」


ご存じなかった?




 


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