「うわーん! トラちゃーん!」
「雄樹! やっぱり俺の兄貴は最低だな!」
「えぇ!? えー……あ、うん?」
そんな俺たちのもとに泣きついてきた雄樹に同意を求めれば、やつは突然のことに驚きながらも必死に頷いていた。アホだろお前。
「で、どうした?」
「えー……なに、トラちゃんおかしいよー。分かった、疲れてんでしょー? 俺も、俺も疲れてんのー!」
「なんだ、疲れて泣きついてきたのか、お前」
「疲労は健康の敵だよ!」
うるせぇ。煙草も酒もやってるお前に健康を語る資格はない。
そんな目を向けてみるが、やつは気づかないのかカウンターの中に逃げ込んできた。
「もうやだー。帰りたいー。帰って仁さんとイチャイチャする夢を見たいー」
「夢かよ」
俺の足元にうずくまり、願望を口にする雄樹。に突っ込む俺。
それを仁さんと隆二さんが笑っていた。
「おいトラ。アホに構うのもいいけどよ、お前の最低な兄貴がこっち睨んでるぞ」
「え? ……う、わ」
仁さんの声につられて兄貴のほうを見れば、不機嫌オーラを発した姿。
やばい、やつは危険なんだ。早くお粥という名の餌を持っていかねば。
「……逝ってきます」
「おー、無事に帰ってこいよ」
仁さんの声援を背に、俺は雄樹の足を軽く踏んでからカウンターを出た。
ぎゃんっ! なんて雄樹から発せられたが、ここはスルーさせてもらう。
……兄貴は、なぜか注文も運ぶのも、必ず俺にやらせるのだ。
だからお粥担当である俺が、わざわざ出向いたりしている。
お盆に乗せた梅粥を手に、女の子をはべらせる兄貴のもとへ近づく。
照明の薄い店内でも分かるほどに、その顔は不機嫌さをあらわにしていた。
「……お待たせしました」
そんな兄貴の待つテーブル席にお盆ごと乗せ、さっさと去ろうと背を向ける。が、
「……とらくん?」
「へ?」
なぜか、なぜか女の子の声が俺の名を呼んだのである。
え、俺、自慢じゃないけど女の子の知り合いなんていないんだけど。
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