「おいおい隆二、それ玲央の前で言ってみろよ。殴られるぞ」
「はは、確かに。なので遠慮しておきます」
激しく動揺する俺とは違って極めて冷静な仁さんは、できあがったナポリタン三人前を盛り付けて雄樹を呼ぶ。そのままアレキサンダー作りをはじめてしまえば、その手際の良さにただただ感動するしかなかった。
「おいトラ、止まってんじゃねぇぞ」
「あ、はいっ」
軽く小突かれて、俺もお粥作りを再開させる。
しかしなんで売れるんだろう、お粥なのに。
ちなみにカシストで一番人気があるのは仁さんのナポリタンで、次が俺の卵味噌つき粥だ。理解しがたい。
「でもよ、トラ。さっきの話に戻るけど」
「あ、はい?」
「玲央ってああ見えて、彼女いるぞ?」
「……は?」
ガシャーン。なんて音がした。
足元を見れば、今から作ろうと用意したお粥鍋が砕け散っている。
「弁償。バイト代から引いとくぞ」
「うぅ……! 了解です……っ!」
それなのに仁さんはさらに俺を追い詰めるし、隆二さんは笑いを堪えてアレキサンダーを飲む始末。
おのれ兄貴! 一体どこまで俺を苦しめれば気が済むんだ……っ!
「てゆーか、え、マジですか?」
「マジ。つーかトラも見たことあるし、玲央の彼女」
「え!? じゃあカシストのお客さん!?」
「客っつーか……なぁ、隆二?」
「あー、はは。まぁ、泉のやつ、そういう性格なんで……はは」
壊したお粥鍋を片付けて、ふたたびお粥作りを再開させる。一体なんど止めれば気が済むのだろう、俺は。
「いずみ? その人が兄貴の彼女さん?」
「おう。玲央にはもったいねーくらい可愛い子だよ」
「えー……」
そんな可愛い子なら、俺忘れないと思うんだけどなぁ……。
「ん? ていうか待ってくださいよ。んじゃ兄貴は彼女がいるのにああやって可愛い女の子を、しかも日替わりではべらせてんですか?」
「そうなるわな。最低だろ?」
「最低だ!」
本当、知れば知るほど生態に嫌悪してしまうぜ、俺の兄貴は。
← →
しおりを挟む /
戻る