Immature
皆には秘密の関係と言っても、それなりの家柄の人はどこからか噂を嗅ぎつけている。
「なあ、ナタネって本当にブラックの婚約者?」
クラウチ家の長男、バーティがどこからともなく現れて、私にそう問い掛ける。
人気のない廊下だからと言って、あまり大きい声でそういう話はしないでほしい。
「……さあね」
「僕はそうは見えないけど、こっちではだいぶ噂になってる。僕はそうは見えないけど」
二回言うな。
「私もそう見えないから大丈夫」
教科書を片手に、スタスタと長い御御足で歩くバーティ。
2つ歳下である彼に身長を越されたのはいつの話だったか。
……というか、突然何を言い出すんだこの人は。
「あんな奴捨ててやればいいのに」
「捨てる……も何も、始まってすらいないから」
「ふうん……、……じゃあ僕でもいいわけ?」
「うん、…………うん?」
じゃあ僕でもいいわけ?
……?
どういうわけ?
「今うんって言った」
「いっ……たけど……いや、どういうわけ?」
「どういうわけって、そういう──」
「おい」
淡々としたバーティの言葉を遮る、地を這うような低い声。
咄嗟に後ろを振り向くと、そこには不機嫌丸出しのシリウスと、ニヤニヤしてるポッター、呆れ顔のルーピン、困った様子のペティグリューがいた。
表情の豊かな集団だこと。
……にしても。
「…………えっと」
シリウスから学校で話し掛けてくるなんて珍しい。というか初めてなのでは?
休暇中やパーティの時は、まあぼちぼち話し掛けてきてくれるけど。
おかげで反応に困りまくり星人になってしまった。
しましまあ、そんなシリウスが一体何の用なのか。学校で、しかも廊下で話し掛けるということは……余程のことなのだろう。
「……、……なんでもねぇ」
そんなことなかった。
なんでもなかった。
じゃあ何で声掛けた…。
「はあ……そっか……」
「……」
「……」
沈黙が痛いが過ぎる。
何か重要なことでもあったのだろうか。でも重要過ぎてここでは言えないこととか……?
「ナタネ、行こ」
まあここで言えないならどうしようもない。
後からふくろうなりなんなりで教えてもらおう。
バーティの言葉に私は頷き、一足先に歩き出したバーティの後を追おうとする。
「おわっ」
しかしそれは適わなかった。
「……」
「……」
この無言でいつもと様子が違う何がしたいのか分からないシリウスに、腕を掴まれたから。
「……何か?」
「……」
沈黙は続く。
「……」
「……」
まだまだ続く。
小さくなった背中のバーティがやっと振り向いた。
腕を掴まれている私を見て、眉間に皺を寄せた……ような気がした。
「……お前、いつからアレと仲良いんだよ」
「……へ?」
思わず出てしまう間抜けな声。
「いつから仲良いんって聞いてんだよ」
なんでそんなイライラしてるんだよ……。
でも……確かに、いつから私はバーティと話すようになったんだっけ。
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