羽化に唇 ▽▽▽ ( UNION / GARDEN )

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 くちくちと粘度の高い水音が聞こえる。万に一つも痛くないようにと念入りに解した穴は綺麗なピンク色をしていて、早く挿れたいと急いてしまう気持ちを、事前にイったことでどうにか落ち着けられたのは幸いだった。すっかりおとなしくなってしまった遼夜は、中のいいところを俺の指が掠めるたびにぴくんと控えめな反応を見せる。
「は、ぁ……ん、奥、」
「遼夜って体柔らかいよな。関節も。スポーツやってるから?」
「んん……? ん、どうだろう。おれは、……っん、怪我の予防にストレッチを……して、ぁっ」
 膝を胸に近付けるようにゆっくり押すと、中の形もじわじわ変化していくのが分かる。一回イってるのに、それでも期待で下半身が熱を持つ。
 遼夜のチンポはでかい。あけすけな言い方になってしまうが、でかい。けれどその色は綺麗なもので、性器に対してこんなことを思うのもどうなのかという感じだが清潔そうだ。片手でゆっくり扱くと、それでも遼夜にとっては刺激が強かったのか「んっ……」という噛み殺し損ねた声が聞こえた。
「遼夜、気持ちいい?」
「んぅ……」
 その声に、自分ばっかりこんな恥ずかしいのは嫌だみたいな色をほんのちょっぴり感じて、余計に意地悪したくなってきた。何を隠そう、恥じらわれると燃えるタイプなのだ、俺は。
 さっき一瞬だけ触ってそれきりになっていた胸へと手を添える。むにむに揉んでみると、まだ行儀のいい乳首も一緒に動く。たちまち最高の気分だ。遼夜の瞳がとろりと蕩けて、けれどはっとしたように首を振る。まだ快感に身を任せる気にはなれないらしい。
「強情」
「だ、誰が……っん、く」
「気持ちいいって言ってくんねえの?」
「ひっ、ぅ」
 爪の先で乳首を軽く引っ掻くと、顎がほんの少し反った。あー、乳首思い切り引っ張って、ぎゅうぎゅうつまんでやったら泣くかなこいつ。痛いことはしたくないから試さねえけど。想像するくらいはいいだろう。己の嗜虐心を抑えるためだ。
 俺が、目の前の光景を妄想のネタにするという贅沢な無駄遣いに耽っていると、遼夜は何を思ったのかそろりそろりと手を伸ばしてくる。シャツの隙間から指先を差し入れて、乳首に優しく指先だけで触れて、俺の様子を窺って、ちょっと不満げに首を傾げた。
 えー、なんだその可愛いやつ。「なんで?」みたいな顔してる。
 なんでも何も、触っていきなり感じるわけないだろ。遼夜も本当は分かってるはずなんだけどな。お前のそれだって、何年もこつこつ積み重ねた経験のお陰なのに。本人の意思はともかくとして。
 まあ、分かってはいても納得はしたくない……みたいな表情でむくれている遼夜は可愛いのだが。それはもう可愛い。
「自分だけ感じてるの、恥ずかしい?」
「ぁっ……」
「遼夜はこうすると気持ちよくなっちゃうもんなー」
 すりすりと乳頭を撫でると、泣き喘ぐような声がこぼれ落ちてくる。柔らかな肉が少しずつ硬くなっていくのを見て言いようのない充足感が胸中を満たしていく。
「んんっ……! 奥、も、すこし、ゆっくり……」
「これ以上ゆっくりは流石に無理だろ」
「ふ、ぁっ」
 すっかり存在を主張するようになってしまったそこに口を寄せた。唇で挟んで、舌を使って唾液をなすりつける。俺の腕に遼夜の指が一瞬だけ食い込んで、すぐにその指から力が抜けた。そんな、壊れ物みたいに扱ってもらわなくても大丈夫なんだけどな、俺。
「不安なら掴んでていいし、爪立ててもいいけど?」
「っゃ、それはいやだ……っひ、ぅう、っん」
 ぐっ、と拳を握りしめて、腕で顔を覆ってしまう。もう片方の手はシーツを掴む。胸元を隠さない辺り、俺の性欲に配慮されている感じがして少しだけ恥ずかしい気がした。少しだけ。
 舌で擦ってやればほんの少しの刺激でも律儀に反応してくれるし、色々とやり甲斐があるなと思う。やっぱり、俺のしたことに言葉でも行動でも、何かしらを返してくれる奴と一緒にいるのは嬉しいことなのだ。
「ぁ、あ、あ、〜〜っも、ぅ、……っ」
「もっと気持ちよくなれるよな? ほら、後ろとろとろになってる」
 中を掻き回しながら乳首を弄ってやると、きゅうきゅう指が締め付けられるのが可愛くて仕方ない。もっと太いものをここに挿れてほしくてこんなにひくついているんだろうと思うと、ギャップでどうにかなりそうだった。
 いつも優しくて、人のことを気遣っていて、控えめに笑うところが好きだ。意外に頑固だし、負けず嫌いだし、苛烈なところも同じくらい好きだ。ちょっと怖いけど。でも、それだって誰かの為だ。
 指をゆっくり抜くと、充分に広がった中は今すぐにでも受け入れができるくらいに潤っている。
「一回イくか?」
「はぁっ……ぁ、ん、……おまえも、いっしょがいい……」
「……実はそう言ってくれると思ってた。言わせてごめんな」
 目尻に軽くキスをして、俺は自分のものを遼夜の尻の割れ目に擦り付ける。そのことにすらびくっと跳ねる体の素直さに喉奥で笑った。たちまち自身が硬くなる。元気だ。
 ゆっくり、ゆっくりと腰を押し進めていく。遼夜が微かに息を詰める音、柔らかく絡みついてくる肉の動き、全てを記憶しておきたいと強く思った。
「ひ、っぁ、ああ……!」
「っ……」
 カリの部分を挿入した後はずるりと中に収まって、いつの間にか顎を伝っていた汗が、ぱたり、と遼夜の腹筋に落ちて跳ねた。あ、と思ってそれを指先で拭うと、きゅうきゅう中が締まって思わず声が出そうになる。
「……っ遼夜、今感じた?」
「んぁ、あ、だって、そこ、撫で……」
「汗が、ついたからと思って」
「ぁああっ、ぁ、ひ、ぅう〜っ……も、ぁう、っん」
 乳首が寂しそうにしていたのでつまんでやると、「ひぁっ!?」なんて悲鳴みたいな声が飛び出してきた。そのままこねくり回して、中がひっきりなしに締まるのを楽しむ。遼夜の表情も声もすっかり蕩けて、どこか快感をねだるような響きが含まれているような気がした。
「は、ん、ぅ……っも、ちくび、ゃ、ぁああ、ぁっ」
「っあー、マジでやばいっ……」
「ひぅっぅん、っ、〜〜っぁ」
 ばちゅん、ばちゅんっ、と肉のぶつかる音。体中が沸騰してるみたいだ。
「遼夜、きもちい……っ?」
「んっ、ぅんっ、ぁ、きもひ、ぃ、ぁ、あっん」
「いちばん、どこ?」
「っひ!? ――っ、も、わかんな、ぜんぶいいからっ、ぁ、ぅあっ……」
 逐一律儀に答えてくれる遼夜の口を口で塞ぐ。舌を絡めて、吸って、ぬるぬると擦る感覚に脳みそが痺れていく。酸素が足りないのも気持ちよかった。感覚が鋭敏になっていく。
 もう一度遼夜の脚を抱え直して必死で腰を振った。壁を肉棒で擦る。いつもよりセンチメンタルな気分に任せて遼夜の手をぎゅっと握ると、ふにゃふにゃの喘ぎ声が今まででいっとう甘くなった。
「ぁっ……おく、おくっ、ぁ、ひぁあ……っ」
 深いところを強く突いた瞬間、ぎゅううぅっと中が絞られるように動いた。握られていた手の力が弱まって、遼夜の体が脱力と共に弛緩する。手を繋いだのが嬉しくてイったみたいで可愛いな、と思いながら俺も小刻みに腰を揺すり、後でちゃんと綺麗にするから……なんて言い訳と一緒に精液を中へと吐き出した。
「っん……」
 悩ましげな声にまた下半身が反応してしまわないように、遼夜の中から慎重に自身を抜く。穴からとろりと流れてきた白濁はいやらしく光っている。
「っはー……」
「奥……元気になった、かな?」
「フルコースって感じだった……元気出た、色々な意味で……」
 さっきまで蕩けていた瞳に早くも理性の色が戻っていることが惜しく思えたが、俺がそれを望んで、こいつに優しさを向けることができるなら、きっとこいつは何度でもそれを見せてくれる。今はそのことに安心した。
 弱音吐くのって、弱いからじゃないのかもな。案外さ。
「……うん? どうした、そんなかわいらしい顔をして」
「いや普通の顔なんだけど……んー、たまには落ち込んでみるのも悪くねえなと思って。案外不毛じゃなかったな」
「ふふ。おまえは普通にしていてもかわいらしいから、狙ってかわいくしたらどうなってしまうのか少しこわいね」
「それ、まんじゅうこわい系のやつか?」
 落ち込んだらいつでも頼れ、とか、そういうことは遼夜は言わなかった。
 言わなくても分かるだろ、って思ってくれたからだとしたら、嬉しいかもしれない。
 だから俺も色々蒸し返すことなく、「なあ、風呂入ろうぜ」と遼夜を促した。「にしても乳首めちゃくちゃ感じてたな。また敏感になったんじゃねえの?」と、ほんの少しの照れ隠しを込めて。
「…………奥」
「ん?」
「……立てないから、運んでほしいなあ。だめか?」
「わ、悪かったって……お前俺が絶対できないの分かってて言うのは駄目だろ……」
「おまえだってさっきのわざと言ったくせに」
 怒ってないけど少しだけ拗ねてます、という分かりやすいアピールをされたので、じゃあこれに応えないわけにはいくまい。恋人の機嫌を回復するため、俺は遼夜を上目遣いで見る。
 こういうことをするのは、正真正銘こいつの前でだけ。
 可愛いと言われて、可愛さを求められてそれでもいいと思えるのは、こいつが相手のときだけだ。
 見てるか、俺をナメてかかってくるクソ野郎共。いや、見なくていいけど。絶対死んでも見せねえけど。これがお前らと遼夜の違いだ。比べるのすら失礼だけど。
「……なあ、許して? おねがい」
 ちょっとだけ眉を下げて両手を合わせると、遼夜は呻きながら「おれが百メートルでも二百メートルでも運んであげるから……」と支離滅裂なことを言った。俺の部屋はそこまで広くねえ。
 にしてもこいつ俺の顔がマジで好きなんだな……と思っていると、ちゅ、と目元でリップ音がした。「お風呂に行こうか、奥」どうやら許してもらえたらしい。
 風呂に入ったら、丁寧にこいつの体を洗おう。俺の全部で優しくしよう。
 そして、今日も好きだと伝えよう。何度でも。
 今日はいい日だった、と、今の俺は自信を持って言えるだろう。

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