羽化に唇 ▽▽▽ ( UNION / GARDEN )

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 由良が体調を崩したらしい。選択科目の課題のプリント代わりに貰っといて、って連絡がきた。城里くんいわく由良ってそんなに体が丈夫じゃないみたい。いや、城里くんを基準にしたら大体の人は丈夫じゃなくなっちゃうんじゃないかなって思ったりもするんだけど……。
「昔はよく熱出してたんだよ、特に遠出した次の日とか。もしかしたら疲れが溜まってたのかもね」
「大丈夫かなあ」
「今日確かゆきちゃんもいない日だしなあ……俺、食料差し入れに行こうかな。宏隆も一緒に行かない?」
「え、いいの」
「うん。宏隆が行けばきっと喜ぶよ」
 こういうときに俺を誘ってくれる城里くんはとっても優しいなって思う。放課後に一緒に由良家に行く約束をとりつけて、俺はそわそわと放課後を待った。もちろん、由良の分のプリントを鞄にしっかり入れるのも忘れずに。

「あれ、ゆうくんたち部活は?」
 放課後、教室を出たところで偶然ゆうくんと万里くんに会った。二人はどうやら部活の無い日らしい。「大牙こそ部活はどうしたんだよ」とゆうくんが言ったので、これから、学校を休んだ由良のお見舞いに行くのだという話をした。
 二人もやっぱり由良のことが心配らしい。万里くんは、「お見舞いに行きたいけれど、あまり大人数になると暁人が余計に疲れてしまうかな……」と悩んでいる様子だ。
「暁人は体調悪くても周囲が賑やかなほうが好きみたいだから大丈夫だと思うよ」
「そうなのか?」
「うん。まずあんまりおとなしく寝てないんだよね。ちゃんと寝ろって言っても『俺は寝るからお前はそこで喋ってろ』ってめちゃくちゃなこと言ってくるし」
 由良らしいと言えばらしいかも。きっと、しーんとした空気が嫌なんだろうな。確かに人の話し声ってなんとなく安心するよね。自分以外にもちゃんと人がいるんだな、って感じで。……きっと由良は、俺と城里くんの二人で行くよりみんなで行ったほうがもっと喜んでくれるんじゃないかなあ?
「ねえ、二人さえよければ一緒に行かない? 由良、大勢で行ったほうが喜ぶみたいだし」
 思い切ってそう声をあげてみると、二人はそれぞれ「……お前がいいなら」「そうだね、ご一緒したいな」と返してくれる。周りに優しいひとがたくさんいるっていいな。こういうときに改めて実感する。
 四人で連れ立って歩いて、近くのスーパーに寄ってお見舞い品を見繕う。どうやら由良は風邪をひいているとかではないらしく、単純に「疲れたら熱が出る」――とか、そういう類の体調不良。城里くんは、風邪のときの定番のスポーツドリンクの代わりにコーラをカゴに放り込んでいた。あとはパックのお米と卵、鶏肉、ねぎ……ちょっと豪華なおかゆの材料かな? 鍋の具材みたいになってるけど。
「体調悪いときってあと何が食べたい?」
「桃缶……?」
「ああ、果物はいいね」
「白桃と黄桃どっちがいいかなあ」
 ちょうど、白いのと黄色いの半分ずつ入ってる缶があったのでそれを選んで、買い物は終了だ。由良家の前に到着すると、城里くんは自分の鞄から鍵が複数連なったキーチェーンを取り出す。幼い頃からの行動範囲に入っているからか、城里くんは由良家の合鍵を持たされているらしい。由良のお兄さんはもちろん、ご両親も公認なんだって。やっぱり幼馴染って強いなあ。
 お邪魔します、と小さく呟いて入った玄関はとても静かだ。
 もしかしたら寝てるのかもしれないな、それだったら起こさないようにしなくちゃいけない、なんて考えつつ、俺は脱いだ靴をそっと隅に寄せた。

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