羽化に唇 ▽▽▽ ( UNION / GARDEN )

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「佑護に嫌われちゃったらどうしよう」
 城里くんが珍しくしゅんとしてよく分からないことを言っていたので、よく分からないながらも俺は話を聞く姿勢になった。ゆうくんが城里くんを嫌うなんてありえないと思うんだけど……どうしたんだろう?
「喧嘩しちゃったの?」
「ん、んんん……違う……なんかごめんね、いかにも話聞いてほしいみたいな言い方して」
 そんなの気にしなくていいのに。友達が困ってたら相談に乗りたいなって思うよ、俺は。
「というか、話聞くの俺で大丈夫? 由良呼ぶ?」
「宏隆が聞いてくれるなら宏隆に相談したいよ。暁人にこういう繊細な話してもしょうがないもん……」
 なかなかの言われようである。幼馴染二人はお互いに恋愛絡みの相談はあまりしないタイプらしい。由良も、城里くんとはあんまりそういう話にならないって言ってた気がする。幼馴染ゆえの気恥ずかしさみたいなものがあるのかも。
 城里くんが言うにはどうやらこういうことらしい。「俺さ……今まで知らなかったんだけど、噛み癖があるみたいなんだよね」
 噛み癖。噛み癖かあ。ぱっと思いつくのは爪を噛むとかだけど、どうやらそうじゃないっていうのは雰囲気で分かる。
「ゆうくんのこと噛んじゃうの?」
「そう。絶対痛いじゃんそんなの。やめたいんだけど無意識でやってるっぽくて」
「ああー……それって普段からじゃないでしょ?」
「う。……うん、そういうことしてるときだけ……」
 どうしようー! とじたばたしている城里くんだったけれど、こちらとしては微笑ましくなってしまう。だってさ、ゆうくんたぶん城里くんに噛まれるの嫌がってないと思うんだよね。そりゃ痛いのはだめだろうけど、もしそんなに酷く噛んでるなら絶対痕になるし誰かが気付く。そうじゃないってことは、せいぜい甘噛み程度なはずだ。
「城里くんって噛むのが好きなの?」
「どうなんだろ……今まで意識したこと無かったんだけど、無意識にでもやってるってことは好きなのかなあ? 宏隆はそういうことある?」
「んんん……自分じゃよく分かんないね。あ、でも、由良にくっつくのは好き。細いから腕の中で収まりがいいというか」
「俺もそういうのがよかったー! 噛むってなんかバイオレンスだよ……」
「噛むんじゃなくて舐めるようにしたら? それなら痛くないよ」
 それいいかも! と素直に同意してくれる城里くんは今日も太陽属性だ。ぽかぽかあったかくておひさまみたいな城里くんに噛み癖があるというのはなかなかのギャップなんじゃないかな、って思う。そういうギャップにゆうくんはやられてるのかも。
 ちなみに俺は、ごろごろしてると由良が骨盤の上あたりに乗っかってきて構ってオーラ出してくるのがかわいくて好き。上から見下ろされるの、ちょっとどきっとしない? 俺はしちゃう。由良本人には悪趣味とか何とか言われちゃうけど、俺ってたぶん好きなひとに振り回されるのが好きなんだよね。由良は、俺一人じゃ見られない世界を見せてくれるのだ。
 うーん……見下ろされるのが好きってちょっと変態っぽい? 内緒にしておこう。別に痛いのが好きってわけじゃないんだけどね。マゾヒストの気質は無いと思う。
「そういえば、みんなとこういう話あんまりしないね」
「全員友達だからかも? やっぱりちょっと恥ずかしいし……へへ、だから宏隆に相談できてよかった。ありがとう」
「そんなそんな、とんでもない」
 ぺこり、と頭を下げると、城里くんも笑ってお辞儀をした。なごみ力が高いよね、城里くんって。
 もし機会があれば、ゆうくんに「実際のところ噛まれるの嫌なの?」って聞いてみようかな。それくらいは聞いてみてもいい気がするし、もしかしてもしかするとゆうくんも城里くんにがぶーってされるのが癖になってるかもしれないし。
「ゆうくんは噛んだりしてこないの?」
「してこないなー。あっでも佑護はキスマークつけるの上手だよ。慣れてる感じしてかっこいい」
「大人の魅力ですね」
「ですね」
「好きなひとがそういうの慣れてると、俺も頑張らないとってなる……」
「分かるよー! やっぱり宏隆に話してみてよかったぁ」
 ちょっと気負っちゃうよね。分かる分かる。由良は疑いようもなく経験豊富だし、ゆうくんだって自分からは言わないけどあれは絶対昔遊んでたひとだよ。たぶん今は黒歴史になってるやつ。
 そんな経験豊富なひとが相手の俺たちは、日々精進していかなきゃならないってわけです。
「城里くん」
「ん? なに?」
「もし由良が俺について何か不満を漏らしてたらこっそり教えてね。こっそり直したいから」
「えっ寧ろ暁人の方が我儘放題で愛想尽かされたりしないかなって思っちゃうけど」
「それは心配いらないかも。俺、わがまま言われるのすき」
「宏隆って心広いよね……あ、じゃあ俺も佑護が何か言ってたらこっそり教えてほしいかな。俺にしてほしいこととか!」
 城里くんは太陽属性なので、こういうところでも言葉の選び方に性格が出るよなあ……と再認識。見習いたいって思います。俺はさ、俺の知らないところで由良が不満を蓄積させてたら怖いなって思うタイプなんだけど、城里くんはそういうマイナス方面の感情じゃないもんね。
 協定を結んだことで満足を得た俺は、最後に欲張ってこんなことを聞いてみた。
「……ちなみに、由良の幼馴染という立場から何かお役立ち情報あったりしませんか」
 すると城里くんは、「んー、そんな面白いこと言えないよ? 騒ぎすぎるときはコーラ渡すとひとまずおとなしくなるとか、実は玉ねぎがあんまり好きじゃないからピザ頼むときは必ず抜くとか……」と指折り数えながらぱっと笑顔になる。
「あと、これは別に幼馴染だから知ってるってことじゃないけど。暁人はね、宏隆のことかなーり好きだよ!」
 ううう、最後にこんな嬉しすぎる情報を貰ってしまった。ありがとう。
 ゆうくんがしてほしいこと、頑張ってなるべく自然に聞いてみるね。

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