羽化に唇 ▽▽▽ ( UNION / GARDEN )

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「ぅぅう、うー……中原、」
「どしたの、怖い? おれここにいるよぉ、大丈夫だよ」
 こいつは「泣いてもやめてあげない」なんて言いはしても実際そんなことはしないし、「おれの好きなようにやっていい?」なんて聞くくせにオレのことばかり考えてくれる。きっとオレはこいつのそういうところに絆された。そういうところを好きになった。
「も……はやく、いれろよ……っ」
「え、もうちょい落ち着いてからの方が……」
「オレがいいっつってんだよ、はやく、いつもみてえにガンガン突けって……!」
 腰を押し付けると中原は恥ずかしかったみたいで、「淡白とか言ってごめんね」と謝ってくる。いつの間にかズボンの外に飛び出していたそいつのちんぽが、穴の中にほんの少しだけめり込んだ。もどかしくて声が震えた。熱い。
「いっ、ぁ、あぁ、――ッ」
 指とは比べ物にならない質量にまた軽くイってしまう。でも出てない。変な感じだ。なんだか妙に浮き立った気持ちになって、無性に「好き」と言いたかった。普段こんなこと恥ずかしくて言えないのに、女みたいなイき方したせいで感情まで女々しく引っ張られている気がする。
「ん、薄野……きもちいね、だいすき」
「っ……あ、オレもっ、オレもすき、だから……!」
「え、めっずらし。今日はすきって言ってくれる日? ねえ、もっと言って」
「んっすきっ、すきぃ……! あっ、あっ、ぁ」
 中原の腰がゆっくりとグラインドして、ナカがきゅうっと締まるのが自分で分かった。思うまま「好き」と言うのは心地よかった。これからは恥ずかしがらずに口にするのもいいかもしれない……なんて、快感に沸騰した頭で思う。
 優しく揺さぶられて、もう声を我慢しようなんて気は一切起きなかった。寧ろ突き上げられるままに喘ぎ声をこぼすことで余計に気持ちよくなっているような気がして、気持ちいいとまた声が出て、もしかして一生終わらないんじゃないかとすら感じる。
「んっ、ぁ、薄野のなか、きもちいいよ……っ」
「オレもっ……中原のちんぽ、きもちぃ……っぁん!」
 だんだん自分が何を言っているのか認識できなくなってきている。中原のことをがっちりホールドしようとしてできなくて駄々をこねて、そのことに中原が笑ったのだけ鮮明に記憶に残った。
 どこもかしこもぐちゃぐちゃのぬるぬる。さっきまではこれ以上の快感なんてそう無いだろうと思っていたのに、中原はそれを軽々超えてくる。認めなきゃいけない。こいつはセックスが上手い。しかもきちんとコントロールできている。
 中原がゆっくり自身をオレの中からぎりぎりまで抜いて、またゆっくり挿れて、更にゆっくり抜いて――オレには三往復しか耐えられなかった。恥ずかしいなんて感情はぶっ飛んで、ただもっと気持ちよくなりたい、早くイきたいという欲に任せて叫ぶ。
「なかはらっ、はやくっはやくぅ……! も、イきたい、ちゃんとイきたいっ」
「ふふ、りょーかい。じゃあ焦らしプレイはまた今度にしようね」
「――ッひぃあ!? ぁっ、あっはげしっ、あっ、なかはらっ」
「んっ、ほんと、今日はいっぱい声出してくれてうれしー……っは、ぁ、一緒にイこ……っ」
「ゃぁあぁあ、っぁあー……! も、いっひゃう、ぅ、んんん――――ッ!」
 がくがくと揺さぶられて、矢も盾もたまらず目の前の体に手を伸ばす。体を近づけたからかよりいっそう深くそいつのちんぽが奥を穿ち、オレはそいつの背中に爪を立てながら今度こそ達した。下半身に生暖かい液体がかかった感触と強い脱力感にちゃんとイけたのだとほっとして――ベッドに自由のきかなくなった体を投げ出した。
 爪立てちまった。ごめん。せめてそう言いたいのに、口を開いてもぱくぱく金魚みてえに動くだけで声が出てこない。消耗がかなり激しいらしかった。体力には自信あんだけどな……。
 倦怠感はあったもののちゃんとイけたからか次第に思考がクリアになってくる。中原はオレの体を丁寧に拭いていて、オレの様子に気付くと「無理して喋ろうとしなくていいよぉ、疲れたでしょ?」と髪を撫でてくれた。ちょっと安心。
 冷蔵庫を開けてもいいかと聞かれたので頷いたら、中原はオレにペットボトルの水を持ってきてくれる。口の中が潤っていい感じだ。ありがとう、とどうにか出した声は掠れてはいたものの、きっと聞き取れただろう。
「やー、なんか今日すごかったね。新しい扉開いちゃった?」
「ん……っは、馬鹿、言ってんじゃねえよ……」
「だってめちゃくちゃ気持ちよさそうだったよ。すきすきーっていつもよりたくさん言ってくれたしかわいかったぁ」
「それは忘れろ」
 なんか、このイき方はヤバい。思ったことがダダ漏れってくらい口から出る。全部本心だからこそ身悶えするくらい恥ずかしかった。
「薄野って普段恥ずかしがってそういうことあんまり言わないから、今日は聞けてうれしい」
「…………ま、まあ、たまにはな」
「薄野はいっぱい気持ちよくなると素直になるんだねぇ」
「おい何考えてやがる? あっ、つーかお前最初から上譲る気無かったんだろ!」
「そんなことないもん! でもおれの方が上手いからお互いの体のためにもこの方がいいと思う、おれ痔はやだし」
「オレが下手クソだって言いたいのかテメェ……」
「だから違うってば。えーとほら、薄野だってもう、気持ちよくなったら挿れてほしくなっちゃうでしょ?」
 ぎくりとする。それはお前がセックスのときにケツ弄ってくるからだろと言い返したいが、はたして本当にそうかは分からない。今日だって終盤は早く突っ込んでほしくて頭おかしくなりそうだった。もしちんぽしか触られてないのに突っ込んでほしくなるようになっちまってたらどうしよう……。
「おれ以外じゃ満足できない体にしてみせるから! 頑張るから!」
「頑張るところじゃねえだろそこ!? っげほ、ぅえ」
「あーもう、叫んじゃだめだよ。水飲んで」
 むせて涙目になっているオレを甲斐甲斐しく世話してくれるそいつは余裕の表情だ。見つめていると目が合って、微笑まれる。
「ね、ここはおれのテクに免じて許して?」
「は? 調子乗んな。何がテクだよ」
「えええ……めちゃくちゃ気持ちよさそうだったじゃん……」
「るっせ馬鹿。知るか馬鹿」
「そんなこと言ってるとほんとに焦らしプレイしちゃうからね」
「じょ、上等だコラ……返り討ちにしてやるよ」
 身に覚えのありすぎる会話の流れに危機感を抱きつつももはや手遅れだ。たぶんこれからもこいつが上。好きだからこそ譲れなかったんだよと言ってくる中原が妙に可愛く感じられて脱力してしまった。こんなことで「愛されてるな」と思ってしまうオレは相当チョロいのかもしれない。
「……マンネリ解消にはなったかよ?」
 なんとなく悔しくてそう聞いてみると、中原は「うん。それによく考えたら、おれが薄野をすきだなぁーって思う気持ちは毎日新鮮だから問題無かったよね! でもたまには薄野からも『すき』って言ってほしいから今日みたいなのもときどきやろうね!」なんて満面の笑みで言ってきた。
「…………、はぁ……? なんなんだお前……好き……」
「えっなにどうしたの突然!? ちょーうれしい!」
 セックスの余韻ぶち壊しで「マンネリだ!」と叫ぶこいつも、「すきって言ってくれてうれしい」なんてきゃっきゃしながらはしゃいでいるこいつも、どうしようもなく好きだ。オレは今更熱くなってきた頬を隠すように俯いた。きっと中原には全部バレているんだろう。そんなことすら心地よく感じてしまいそうになる。
 オレは、中原が「ねえこっち向いてよぉー」と言ってくれるのを期待していた。その期待はきっと傲慢で、けれどこいつならそれも許してくれるだろう……なんて、また自分勝手なことを考えてしまうのだった。

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