泡沫の夢
8話
こんなにも深く、サスケという人間を特別に意識するようになったのは。
あの時から。
出会った当初は、いけすかない野郎だと毛嫌いしていた相手に対して、自分の中で確実な変化が生まれた、波の国での任務。
瞳を瞑れば、すぐに浮かんでくる、その姿。
その声。
『お前は死ぬな…』
里中の人間に忌み嫌われ誰に見返られる事もなかった自分を、護り庇うために。
自らを顧みず、その命を投げ出してくれた。
こんな取るに足りない落ちこぼれの自分が助かるよりも、人も羨む血継限界を持ち忍の才能も実力も充分な彼が生き残る方が、余程里の為になるのに。
本来であれば、こんな所で命の危機に曝されることなど、あり得なかったはずの彼なのに。
やりたい事も成し遂げたい事も全てを犠牲にしてまで、ドベな自分の未来を繋いでくれたのだ。
結果的にサスケが死ななかったから、良かったものの。
あの時は、衝撃に言葉が声にならなかった。
その感情を、どう言い表わせば良いのか…………。
ただどうしようもなく胸が苦しくて、切なくて、骨が折れかねない勢いで血濡れた身体をかき抱いた。
まるで生まれた時からずっと自分に足りなかった、欠けていた何かが埋められていくかのように。
これまでにない大切な何かが、サスケという存在から、全身に浸透していくような感じがした。
[ 前 へ ][ 次 へ ]
[目 次 へ ][TOPへ]