王子様に恋して
3話

巷ではカノンの王子様だとか勝手に盛り上がって持て囃されているけれど、そもそも佐助は鳴門の王子様なのだ。


颯爽とピンチに現れて鳴門を救ってくれた、正義感溢れる王子様。


けれど、人間よりもピアノに夢中な王子様だ。


(あーあ……ピアノがうらやましーってばよ)


あんな風に情熱的な色彩を持った瞳に見詰められたい。


あのしなやかで繊細な指先に触れられたい。


(こんなに好きなのに……)


誰よりも傍にいるのに、いまだに鳴門の片想いなのだ。


盛大に溜息を吐いて、美しい旋律を奏でるその指先を目で追っていれば、不意に音が止んだ。


それまでの滑らかな動きを止めた佐助が、今にも舌打ちしそうに眉をしかめている。


「ど、どーしたってばよ!?」


慌てて、だらしなく寄り掛かっていた椅子を蹴倒し、しきりと左手の具合を気にしている様子の佐助に転げるように駆け寄った。


ガターン!ドタバタ!と静謐な空気の流れる音楽室に似つかわしくない騒音が響き、佐助のしかめっ面がちょっぴり割り増ししたが、元凶の鳴門はてんで気付いてはいない。


そこが鳴門らしいっちゃらしいのだが(笑)。


「大丈夫か、佐助!?」


「……うるせェぞ、ウスラトンカチ」


「ハァ!?何が!?それより手だろ!手!痛ェのか!?」


「………チィ」


「大丈夫かってばよ!?大事な手だろ!」


「……大したことねェ。少しつっただけだ」


そう言いながらも、しかしどこか憮然とした表情は隠しようがなく、心配になった鳴門は確かめるようその掌を手に取った。


ピアニストにとって手の怪我は致命傷にも等しいから、鳴門も人一倍、指の怪我には神経を尖らせているのだ。



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