王子様に恋して
4話

慎重に目の高さにまで持ち上げ、じろじろとあちこち眺め、検分する。


細く長く節くれだった指に、桜貝のような淡い爪。


幸い、見た限りでは腫れもなく、赤みもないようでほっとする。


繊細で綺麗な佐助の指。


今の今までピアノを弾いていた手は、情熱と言う名の熱を孕んでいるような気がして、急にその体温を鮮明に意識してしまう。


佐助の温もり。


トクンと胸が高鳴った。


(どーしよ!どーしよ!トキメいちゃったってば!)


あわあわと、それでも恋焦がれた人の手をあっさり離すのがもったいなくて、鳴門はニギニギと意味もなく触りまくった。


「オイ、いつまで握ってんだ。手ェ離せ」


だが、相手はそんな自分の健気な心を酌量してはくれないらしい。


随分と素っ気ない声が投げ掛けられる。


痛みの方はだいぶ引いてきたらしく、気丈な横顔は既に普段の冷静さを取り戻していて、ほっと安堵したものの、鳴門はそれでも名残惜しくて手を離せないでいる。


トキメキは、そう簡単に手離せないものである(笑)。


「あー、うん。アレだってばよ、アレ………あ、マッサージ?オレってばマッサージしてやる!」


「………は?」


ぷにぷにと、可愛らしく指を押したり揉んだりしてみたりする。


努めて真面目を装って真似事をしてみたけれど、我ながらかなり嘘臭い手つきだった。


マッサージなんて、もちろんした事はないし、やり方も知らない鳴門である。


それをどう解釈したのか、じっと鳴門を見上げて佐助は目を眇めると、口許に小さく微笑を刻んでから、掴んでいる手首へと悪戯な指を遊ばせた。


途端に、ビクッと弾かれたように鳴門の腕が跳ねた。


「マッサージはこうやるんだよ」


驚きのあまり限界まで見開かれた蒼い瞳に、ニヤリと笑って意地悪く囁けば、まろい頬にさっと朱が散った。



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