王子様に恋して
2話

出会いは、小学校の入学式。


日本では珍しい金髪碧眼に目をつけられ、意地の悪そうな上級生達に取り囲まれてしまった鳴門を、助けてくれた。


誰もが見て見ぬふりをする中、自分と同じような真新しいランドセルを背負った少年が、その背に庇ってくれたのだ。


自分より身長の高い相手に臆した様子も見せず、逆に威圧するよう剣呑な態度で睨み据える少年に、彼を取り囲んでいた上級生達は気圧されたように後退り、逃げて行った。


「オイ、大丈夫か?」


あっという間の出来事に、声もなくコクコクと頷くことしか出来なかったが、それを見て、少年はほっと安堵の息をつくと、ふっとはにかんだように微笑した。


その瞬間、頭の中が真っ白になったと言うかーーーー


(ひとめボレ……だったんだってばよ)


窮地に陥った己の前に颯爽と現れた彼の、負けず嫌いな瞳も、容易に屈することをよしとしない強い意志も、何もかもが眩しくて、まさしくその姿は鳴門にとって王子様だった。


それからずっと佐助が好きで。


ずっとずっと佐助に恋をしている。


何をせずとも、ただ傍から見ているだけでも嬉しくて。


ときどき相手の視線を独占したくなって、いろんな悪足掻きをしてみたりもする。


けれど佐助が一途に見詰めているものは、いつだってピアノだった。


本音を言えば、鳴門はピアノを弾く佐助の事は、あまり好きではなかった。


別に佐助にその才能がなくたって彼を好きな事には変わりないのだから、彼が弾けなくたって全然構わないと思っている。


でも、佐助が純粋にピアノを愛しているのを知っているから、なかなか、ピアノにばかりかまけてないで自分の方を見て欲しい、とは言えずにいる。


それどころか、好き、の一言さえ告げた事すらなかった。



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