名も知らぬ君との出会い
2話
子供独特のやや甲高いその響きは、耳に馴染みつつある声。
うきうきと何がそんなに楽しいのか、はしゃぐような口調につられて、声の主を振り仰ぐ。
自分とそう変わらない身長で、肩や手足が僅かに華奢で小柄な、金髪蒼眼の少年。
彼がどこの誰なのか、名前も何も知らない。
ときたま、少し俯いて足早に過ぎる背中が視界の端をよぎる程度の、他人。
土手を行き交う人の群の中の一人。
最初は、ただそれだけだった。
けれど、偶然何かの拍子に目が合った時、大げさなぐらい嫌そうな素振りで彼にそっぽを向かれ、顔見知りですらない相手からの不躾な態度に、無性に腹が立った。
それでも、必要以上に他人と関わりたくなかった自分は、そのまま彼を無視していた。
本来なら、むきになる程の相手ではない。
その他大勢の中の一人のはずだった。
はずだったのだが………気が付けば、いつの間にか彼と張り合うように、行き合う度にわざとらしく不機嫌にそっぽを向く行為を繰り返すようになっていた。
思えば、同年代だろう背格好に、お互いにいつでも一人きりでいる事が、必要以上に相手を意識させたのかも知れない。
けれど自分にとってそれは、あくまでもその場限りの、特に深い意味などないやり取りだった。
大して関わるつもりもなかった。
ところが、その行為の何が彼の心に引っかかったのか。あるいは気になったのか。
土手の上と下。決して交わることのなかった距離を、ある日彼は飛び越えてきた。
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