熱情
3話
「お前を抱きたい」
二人にあった距離を詰めながら、恋人は掠れた声で彼に懇願する。
苦しそうに、そしてとても狂おしげに。
いつもなら、無理にでも自分から口付けを奪っていく強引な男が。
どんな時でもクールに構えて、焦燥など一度も見せた事のなかったサスケが、全ての虚勢をかなぐり捨てて、今はただナルトからの返事を待っている。
きっと言葉の内容さえ違ったなら、自分はすぐに彼の元へと飛んでいっただろう。
そう思わせる程、恋人の浮かべた表情は切ないもので、それを目の当たりにしたナルトは、胸の奥の一番柔らかい部分をぎゅっと握り潰されたような、何とも言えない痛みを不意に覚えた。
言葉では表現しきれない、不可思議な感覚。
鈍く、そのくせ止む気配のない感覚は心臓の鼓動と同調して、胸の奥で激しく波打っているようだった。
付き合ってきたこの一年というもの、サスケがそういった行為を自分に求めた事は、これまで一度もなかった。
有無を言わせぬ強く掻き抱く腕と、理性を壊されるような激しい口付け。
しっかりとした確かな温もりと安堵。
すぐ傍に、手を伸ばせば触れられる距離に相手がいる。
それだけで満たされていた。
だが、いささか強引な手段で自分を振り向かせた男にしてみれば、それは手緩い行為だったのかもしれない。
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