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「……まぁ、そんなとこ」
みっともなくボロボロになった一連の概要を一通り話すと、聞いてきた割に興味無さそうな兄貴がふーんとコーヒーを煽った。興味がないのかまだ不機嫌なのか測りかねる。
「捕まったんだろ?」
「二階級特進するとこだったけど」
半分賭けでふざけて笑うと呆れたような視線が送られた。どうやら怒りの暴走機関車は沈静化したらしい。俺たちの空気が緩んだからか、毛利さん一行の話し声も再開したようだった。

「詳しくは言えないけど、車にあったのは薬らしい」
車上から発見された段ボールの中身はMDMAやら大麻やら違法ドラックなんかのバーゲンセール。警察に見つかったら只じゃ済まないと分かっての逃走劇だったとか。轢き殺したら更に重い罪になるだろうが、それは冷静に考えてのこと。きっと平常でも冷静でも無かったのだろう。血走った目と釣り上がった口端から見えた剥き出しの歯茎を思い出す。やはり薬物に染まった人間は得体の知れない恐ろしさがある。
やっと、どぼどぼとコーヒーにミルクを入れられる。コーヒーを淹れてくれた人間への冒頭だが、一種の意趣返しであるので今回ばかりは良しとする。残す方が失礼だと思うので。安室さんもそれを見越してミルクを持ってきたのだろう。薄い色になったコーヒーをソーサーから持ち上げると背中にドンっと何かがぶつかってきた。

「んじゃマトリの管轄か」
服から香るタールの匂いで犯人が分かった。反射的にコーヒーの波を口で迎える。パシャリと音を立てて無事に波は消えた。一応溢していないか確認して顔を上げると、サングラスをかけたまま持ち上げた陣平くんが安室さんに向かってヒラヒラと手を振っていた。求めたい訳ではないが当然のようにこちらに謝罪はない。

あ"ぁ、とオッサン臭い声を出して彼が腰掛けると重みでソファが沈み込んだ。奥に行けと押しやられ、ソーサごと持って奥に詰めるとタイミングよく彼の分のコーヒーが届いた。相変わらず周りを振り回すのがお得意だ。
そういや、なんで陣平くんが今までの話の流れを知っているんだと思いながら、またコーヒーに口をつける。また兄貴がなにかしたのか。
ちらりと兄を見やると通話終了と表示されたスマホを掲げていて思わずため息が溢れた。一連の間、スピーカーモードでずっと通話を繋いでいたらしい。やはりこの人には敵わない。

「それでお前は仕事どうしてんの」
「デスクワーク」
「良いご身分じゃねぇか!」
「おうおう、精精頑張りたまえ」
「うるせぇ」
書類まとめたり、報告書かいたりしちゃって〜と揶揄い始めた二人から目を逸らす。揶揄いっぷりからするに2人ともデスクワークに向かなそうだと思っていたが本当らしい。根本的に事を大きくするのがお得意の問題児なのでやっぱり現場が向いているのだろう。この人たちは本当に自由人だ。
空になったカップに席を立つと、すかさずお前の奢りなと同時に言われて、仕方なく財布を取り出した。



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