蝉時雨

「あー、食った食った」
ソファにドカンと座り込み、膨れたお腹をぽんぽんと叩く萩原を、諸伏がクッションで端に押しやる。適当につけられたテレビからは、バラエティ特有の誇張したような笑い声が聞こえてきた。

夏の夜、どこにいるのかと言うほど虫の声が響いてくる。名前には虫の音を聞き分ける事が出来ないからこそ、ただ暑苦しさが増すと思っていた。それでも夜になると、多少涼しくなる。クーラーを弱めて、開け放った窓から庭に向けてビールを煽っていた。

どすっと、横に伊達が腰掛けてきた。先に風呂に入ってきたのだろう、タオルが肩に掛かっている。
「おう」
ビール缶を持ち上げるようにして挨拶すると、プシュッと小気味良い音で返された。 
「…っああ」
喉を鳴らして飲み込んだあとに、声が漏れてくる。

「おっさんみてぇ」
揶揄う様に呟くと、ハハっと豪快に笑われた。どこか大人びている彼は、弟と同い年には感じられない。調子狂うな、と思いつつ、ビールを流し込んだ。

達観した様な目で、伊達は庭を見つめる。同じように見つめても、ただ黒々とした闇に、虫の音が響いているだけだった。月明かりだけが明るくて、生温い風が首を撫でる。月はまだ、満月には程遠かった。



「そろそろ寝ろよ」
まるで中学生に言うセリフじゃないかと思いながら、ソファに寝そべってテレビを見る弟達に言う。それでも中学生とは明らかに違うのは、皆が皆、酒を飲んでいるところだった。
そんなに自堕落でいいのかよ、と呟くと、警察学校はクソ厳しいんだとクッションに顔を埋めた陣平からくぐもった呻き声が聞こえた。確かに警察学校で夜中までテレビを見ているイメージは1ミリも無い。

少し、仕方ないかと彼らの日常を考えて思った。
…いや、そんな訳あるか。時計の針は12時を回っている。
ブチっと音を立ててテレビを消す。芸能人の笑い声が部屋から消えた。スッと集まった文句を言うような目線から目を逸らし、明日、なんかすんなら早く寝ろと噛みつくように言うと、渋々といった態度でそれぞれが動き出した。
既視感を覚えるそれに首を捻ると、中学生の頃の陣平のままで、思わず吹き出した。
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