境界線

「浴衣着る?着る?」
「そもそもねぇだろ」
「…まじで?」
「私服でよくねー?」
くるくると家中を無遠慮に走り回り騒ぐ萩原と陣平を横目に、ソファでは降谷が無言でスマホを弄っていた。なにやら横から覗き込んでいる伊達との会話を聞くとSNSで祭りの情報収集をしているらしい。意外と楽しみにしているのは萩原よりコイツなのかも知れないなと思っていると、諸伏がゼロは日本文化が好きなのだと教えてくれた。

「見て見て、いちご飴だって」
映えじゃね!?といつの間にやらスマホ片手に騒ぐターンに入った萩原に陣平が死ぬほど興味ない顔をしてふーん、と返事をする声が聞こえた。SNSで検索したいちご飴を写した写真を拡大してはしゃいでいる。どうやらここ数年にして町おこしなのかは知らないが思ったよりも祭りの規模は拡大したらしい。昔は駄菓子屋のじいさんたちと子供のこじんまりしたものだったが、今では思ったよりも観光客が多いようだ。少しSNSで検索すると若い女性が写真を投稿していることが多いようだった。それなのにあんなホームページなのが何かズレてる感じがするが、まあらしいと言えばらしい。
少し前まではヤンキーが溢れていたというのに不思議な感覚だ。公園の木を焼き払うヤンキーは今でもいるようだが。

「俺普通のりんご飴食べたい。いちご飴って食べたことないけど、小さくないのか?」
「量よりかわいさだろー!」
「肉だとそんな事いわねぇのにな」
「それはそれ」
スマホ片手に3時間後の事を延々と喋る様子は完全に女子高生とそう変わらない。コイツらこんなでも警察なんだよな、と何とも言えない気持ちになった。世の中、存外こんなもんなのか。
「俺焼きそば食べる」
「射的するわ、多分腕上がってるハズ」
「訓練してて上がってなかったら不味いだろ」

会話をBGMにスマホでメールを確認していると、仕事の同僚からメールが来ていた。こいつも医師からの監察医になった仲間で、転職する時に巻き込んでやったある種の相棒だった。無理矢理巻き込んだ感は否めないが、まんざらでも無い感じだったので特に何も思っていない。パワハラされてたし丁度よかったんだろう。
メールの内容は検案しても死因が分からなかったからと解剖した報告書の共有だった。ノートパソコンで確認すると報告書が送られてきている。血中成分が不自然だった事と胃の内容物に不審点があった遺体だった。これを何で死んだのか纏めて期限までに警察に渡さなくてはいけない。
続けて送られてきた土下座とハートの絵文字と、手伝っての文字に無言で青筋を立てる。

「型抜きで勝負しようぜ」
「勝ったら?」
「わたあめ奢り」
「勝つわ」

無言でキーボードを叩き、個人的な予想を箇条書きにしていく。別にそのまま警察に送るわけでもなし、いささか私情や予想が入りすぎているが、俺の問題じゃない。血中濃度について書き終わったところで、そういえばこの場には警察官が5人もいることを思い出した。
「お前ら、遺体の胃に紙入ってたらどう思う」
「ダイイングメッセージ」
「それか証拠隠滅」
即座に帰ってきた返事にだよなと頷く。そのままの文字を同僚に送りつけて、スマホで中指を立てた絵文字を送っておいた。

「急に何事ですか」
「仕事の仏さんが紙食ってたわけ」
「文字とかは?」
「解読中名前らしきもんが出てきたってよ」
「よかった、んですかね…」
「しらね、そっからはそっちの領分だろ。こっちはそこまで」
複雑そうな顔をした警察官たちに無言で舌を出してノートパソコンを脇に抱える。そろそろ着替えにでも行ったほうがいいだろう。
「型抜き俺が1番上手いと思うわ」
はぁ!?爆処なめんなや!!と勧誘されただけの所属すらしていない部署の名前を背負う弟の声に腹を抱えた。
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