納涼

「で、お前ら何しに来たわけ」
ぎゃあぎゃあ騒ぎつつテレビを見ながらアイスを食べるという小学生の夏休み中盤みたいな事をしている弟たちに声をかけると、全員で顔を見合わせ同時に肩をすくめた。昼時のつまらないバラエティー番組の音がセミと戦っている。

「お前らな」
「「帰省」」
「お前らはな」
何聞いたんだとでも言いたげな顔をする弟とその親友に思わず顔を引き攣らせた。暑さで頭やられたのかもなと小声が聞こえてきて、口に入ってきた氷をばきりと噛み砕く。そもそもここは萩原の家じゃねぇ。腹いせに自分のコーヒーにありったけの氷を足し(氷ごと貪り食った奴が居たらしく残りわずかだった)、クーラーの温度を2度あげると全員から非難の声が浴びせられた。

「そこのバカ2人のせいな」
「ふざけんな松田てめぇ」
「萩もだろ」
「お前ら責任とって氷作ってこいよ」
「こういうのは連帯責任だろ」
「残念ながらここは学校じゃねぇんだよな」

くっそ……と文句を言いつつ立ち上がった陣平と萩原がガコガコと冷蔵庫付属の製氷器に水道水を入れ始めた。残念ながらミネラルウォータなんてモノは我が家に無い。東都の水道水の綺麗さを味わえる。塩素があった方が氷に雑菌が繁殖しないので良いなんてテレビでもやっていた。ついでもばかりにいつしか買い足した型を渡し冷凍庫に入れさせる。これで妖怪氷食いが出ても問題ないだろう。
のそのそとテレビ前に戻った2人がだらりとフローリングに溶けた。

「マジでお前ら何にもやる事ないわけ?」
「えー、俺あれやりたい、花火!」
「あ、俺も」
「いいな」
萩の一声に諸伏と伊達が乗っかる。
久々に聞いたそれに、焼きそばの少し焦げた匂いとそれに混ざる花火の余臭を思い出した。
ふと思い立ってスマホで近所の夏祭りの日程を調べる。祭りの名前も知らないし、大規模なものではないからすぐに出てこない。だからこその変わらない良さがあるのだが。いっそ市役所のホームページなんかから調べた方がいいかもしれない。

「公園とかでできんじゃね」
「いいじゃんやろうぜ」
「ヤンキーが前に木一本焼いて禁止されてっぞ」
コンビニで買って公園でやろうと話が進んでるようだったが気にせずに水を差した。陣平が出て行った年の夏に地元のヤンキーがやらかしたのは記憶に新しい。期待するだけ裏切られると辛いものだと落胆の声が聞こえたが無視をする。同時に祭りの特設サイトがぽんと画面に浮かび上がった。縁日の写真を背景したどこかお粗末なサイトを拡大して画面を代案を考えているらしい降谷にみせる。ぱちりと瞬いた目が画面をたしかに捉えた。

「花火」
今日やるってよとスマホを軽く揺らすとうつ伏せで唸っていた4人がバッと同時に顔を上げる。
輝き出した5人の目に少し気圧されたのは死ぬまで秘密である。
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