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▼ 看過された微粒子

7話



放課後、普段は授業が終わり談話室に戻った後、2階の図書室へ向かうが、今日はあの罰則の日だ。私は数占い学の教室へ向かわなければならない。
数占い学の教室は東塔6階のピタゴラスの動く胸像の横にあり、ひっそりとあるその部屋のまわりはあまり人が近寄らない。
罰則でバーキンス先生に会いに行くなんて気が進まないが、重い足を引き摺って階段へと向かった。


絵画達の世間話で溢れ返っている動く階段を慣れた様子で上る。
この動く階段を動かないようにしてくれないだろうか。
入学当初この階段のせいで何回も授業に遅れそうになった記憶がある。どうせなら足場がするすると昇降するような階段が良い、絶対に。
そんなナンセンスなことを考えつつ6階に辿り着く。

廊下には夕日の赤い光が差し込んでいて、昼間とはまた違う眩しさがあった。
そういえばシリウス・ブラックはちゃんと来るのだろうか、彼の普段の素行からして罰則に来なくてもなんら不思議はない。
目を細めて廊下を見ると、なにやら黒い影が動いていた。
数占い学の教室の横の胸像の前で動くそれはよくよく目を凝らしてみるとシリウス・ブラックであった。
よかった、ちゃんときてる。
ほっとしたのも束の間彼が何をしているか気が付き、私は撫で下ろした胸をすぐに引き戻す。
ブラックはどうやら胸像に落書きをしているようで、企んだ顔で羽根ペンをせっせと動かしていた。
なんてことしてんだ!
胸像はなにをする、無礼者!と、硬い身体(胸から上しかないが)を必死に仰け反って抵抗している。
この人はいつも、私には理解出来ない行動をやってくるがどうにかならないものか。
私が何かを言う前に、ブラックはやっときたかとこちらを向いた。

「暇だったんだよ、遅い。来ねぇかと思ったわ。」

「遅れてはないわ!」
たしかに渋ってきたが、約束の時間には間に合ってるのでノープロブレムだ。
それに8階のグリフィンドール寮と違って地下のスリザリンは遠い。
それに遅いからってなんで胸像の右鼻から緑色のつるがちょろりと垂れていることがあるというのか。
いまだに胸像をみて可笑しそうに笑っているブラックを通り過ぎて、古ぼけた木製の扉の前に立つ。

「バーキンス先生、レーベラ・バレンシアです。」

ノックとともに名前を名乗る。
緊張して顔が強ばるのを感じた。
中のバーキンス先生はどんな顔をしているだろうか、怒られる…だろうか。
なかでドサドサっという何かが崩れる音がきこえドアがばんと、勢いよく開けられる。

「やあやあ、問題児諸君!待っていたよ!」

そう言ってずいっと近づけられた先生の顔。
罰則を迎える生徒に対する顔では無いほど綻んでいるそれに思わず赤面する。輝くコバルトブルーの瞳に吸い込まれそうだ。
先生はすこしやつれていて、相当資料整理にやられているようだった。
嬉しそうな先生にされるがままに教室に入れられる。

「さあ、Mr.ブラックも!」

「え、おい…ちょっと」

ブラックも満面の笑みの先生に手を引かれ、持っていた杖も仕舞わぬ間に中へ通された。


「さあ、座って。
ここでちょっと待っててくれるかい。」

私たちを適当な席に座らせるとそう言って先生は直ぐに資料の山へと戻った。
あれやこれやと資料の山の中で何かを探る先生が見える。
あれ、なんかこの前より増えてないか。

「あぁ、バレンシア、こないだのとはまた別に、奥の私の部屋にももう少し置いてあるんだよ。」

私の心を読んだかのように先生は答える。
このもう少しは若干信用に足らないが、要するに量がとてつもなく多いのだろう。
まあ、元々手伝う気でいたのでなんら問題はない。
横のブラックはげっそりとした顔でそれを見ている。

おお、あった、と資料の山の向こうで先生の声が聴こえると、そこからすいーっと薄緑色のティーカップが2つ出ててきた。
カチャンとゆっくりと目の前の机に置かれた可愛らしい空のティーカップ。

「先生、私たち罰則できたのでお茶は…」

「いや、これは私の挨拶みたいなものだからね、気にするんじゃない。罰則なら多分充分のようだしね。」

注ぎ口から湯気の出ているポットを杖で浮かせながら、先生がこちらにくる。
「また随分とフリットウィック先生を怒らせたみたいだけど、なにがあったんだい?」

面白そうに茶化していう先生に言葉が詰まる。
ちらりとブラックをみると自分で説明しろ、と冷たく目線であしらわれた。

「……わ、私の武装解除呪文が、ブラックに、跳ね返されて…いろいろ、あってフリットウィック先生に…。」

途切れ途切れながらも事の詳細を述べる。

「ほんと、とばっちりだぜ」

背もたれにだらんともたれ、両手を上げてやれやれというブラック。
腹が立つが、バーキンス先生の前だ。無視をする。
「ははっ、ちょっとその場に居合わせてみたかったよ。さ、お茶をどうぞ。」

教師らしくない発言だが、先生が気にしてないことがわかりほっと胸を撫で下ろす。
先生は慣れた手つきでティーポットを傾け注いだ。
瞬間、香ばしい香りが鼻に入ってくる。

「いい匂い…」

「この茶葉は頂き物でね、マグルのある高級茶葉さ。」

注がれたカップの中を覗き見ると、綺麗な透き通った琥珀色であった。
非常に上品な香りだったが、『マグル』ときいて手をぴたり、と止める。





「マグル?先生ってマグルに詳しいんですか?」


なんでもないように私は先生に質問をした。

「あぁ、マグルはとても興味深い人達だ。」
バーキンス先生は自慢げにふっと笑って答える。

「マグルのモノを沢山集めているんだ、結構ツテがあってね!特にバイクは最高だね。」

そういって胸ポケットからなにかを取り出す先生。
いつのまにかブラックは先生の方に体を傾け身を乗り出している。
先生がとりだしたものは写真で、ぴかぴかの赤色の乗物にバーキンス先生が跨り、輝く笑顔でピースサインをしていた。

「これ、マグルのバイク特集に乗ってたやつ!」

興奮気味にブラックが言う。
目の色を変えるとはまさにこのことだろうか。ブラックの灰色の瞳はいつもと違ってキラキラと輝いている。
知っているのかい、とバーキンス先生も高揚した様子で言った。

「あぁ、ここ最近はデザインが特にかっこよくてね。ダグラス、ロイヤルエンフィールドなんかは…」
二人とも目を爛々とさせて話し出した。
訳の分からない単語の羅列に理解の範疇を超えたため、私は大人しく聞き流すことにする。

楽しげに語るバーキンス先生…とブラックをみつめる。


『マグル』
私はこの言葉が小さい時から大嫌いだった。それはいつだって私達を苦しめたのだ。
少なくとも友好的な感情をもちあわせていないそれを私が尊敬する大好きなバーキンス先生は興味深いという。
その理解し難い相反に私はどうしたらいいか分からずただ呆然と先生を見つめた。


青い目をキラキラとさせて話すバーキンス先生は本当に楽しそうだった。
すると、先生は時計の方を見て思い出したように言った。

「あぁ、そうだった!君達に罰則を受けてもらうんだったね。
随分と話がそれてしまった。今日はこの分を頼むよ。」

そういって先生は杖を一振し、資料の山の上の方からほんの一部を浮かせ、こちらに遣った。いや、少しではない。しっかり大量だ。
山から取ったそれはほんの少しのように見えたが、先生が言った通り充分な罰則に値する量であった。
先生のその言葉を合図に思いを巡らしていた私の脳内は突如現実へ引き戻される。


「マジかよ…。」

「…。」

そのあと私たちの杖腕が痺れたのは言うまでもない。





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