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▼ ありふれた日常の微変

6話

フリットウィック先生の部屋を出て、ブラックを無視したあと、私は絵画たちへの挨拶もそこそこに、動く階段を不機嫌に音をたてて降りた。そして複雑に入り組んだ道を数回まがったころで私はふと歩みを止める。
静かな廊下とは対照的に扉の方からは賑やかな騒ぎ声が聴こえた。
大広間だ。
時々聴こえる騒がしい悲鳴はグリフィンドールだろうか。
首元にぶら下げていた懐中時計を取り出し確認する。
もう夕食の時間じゃないか。
この匂いは焦がしチキンだろうか、そういえばティティが今日の夕食はローストビーフと焦がしチキンがあるの、なんて言っていたきがする。匂いだけでも美味しそうだ。
そんなことを思い出してレーベラは足早に大広間へ入った。

今日はいつもよりエネルギーを使い過ぎたせいか随分とお腹が減った。
腹の虫は香ばしい匂いに誘われて止むことなくなり続けている。
なった所で大広間の喧騒にはかき消されてしまうと、とくに気にせず緑色の生徒達が集まるテーブルへ向かった。

「レーベラ!こっちよ!」

フォークでローストビーフを丁寧に皿によそっていたティティがこちらに気づき声を上げる。
すると近くに座っていた何人かのスリザリン生がティティの視線の先、私に目を向けた。

なんだ、私なにか変なことでもしただろうか…?
偶然こちらを振り返った様子もなく、探るような目でみるそれに居心地の悪さを感じ、そそくさとティティが空けておいてくれた席に座った。

「なに、今の?」

「なにっていうか、シリウス・ブラックでしょうね。」

もうお腹いっぱいなその名前に若干顔を顰める。
ティティは上品にローストビーフを切り分けながら続けた。

「あの人は良くも悪くもスリザリン生にとっては目立つ人物でしょ、皆気になるのよ。」

「そういうもの?たかが、呪文でからかわれただけなのにね。」

たしかに血を裏切る者としてスリザリンではあまりいい噂は聞かないブラックだが、あのルックスや、才能等はそれすらも越えて女子達には密かに人気がある。
憎悪や、憧れなど、様々な関心を持たれるシリウス・ブラックが関わるとやはり目を引くというのだろうか。
しかし、普段からこんな風に注目される人間ではない私にとってはその体験は不思議以外のなにものでもなかった。
シリウス・ブラック、というだけで人の態度とはこんなにかわるものなのか。
まあ今回は悪戯好きのブラックがとあるスリザリン生に呪文を仕掛けたというだけなのでとくに気にする必要もないだろう。
ティティもとくに気にした様子もなく、豆をスプーンですくっていたので、私も皿を持ってローストビーフをよそおうとフォークをそれに刺した。

瞬間、ガタッと隣に誰かが座ると同時に私の右腕にぶつかられ、私はビーフを刺したフォークを落とした。
少し腹が立って横をみると一瞬怯む。隣に座った面々は、マルフォイ、レギュラスブラックを中心として、マルシべール、エイブリー、ナルシッサブラック等の錚々たるメンバーであった。
あまりに華やかなそれに目が眩んだ。
ま、まぶしい。

「あ?何か用かよ?」

メンバーの1人であり、私にぶつかってきた張本人、マルシベールが私に気付き、問い掛ける。
どことなく不良感漂う鋭い物言いに私は気圧される。
ま、まあべつにそんなに気にすることでもないか…。

「い、いやべつに…。」

お得意のヘタレを発揮した私は蚊のように小さな声で答え、即座に目を逸らし口を噤んでフォークを拾った。
隣でティティが呆れと、おそらくマルシベール達に対する怒りのまじった目でこちらを見ていた。

だってこわいんだもん。

とゆうか現在もがつがつ肘をあてられているが、反論する勇気もないため私は心を無にして再び皿に向き直った。
なんだか最近いろんなものに行く手を邪魔されている気がする。

「はぁ…」

グギュルルルルルル!!


力を抜いたその瞬間お腹が盛大に鳴る。
さっきまで鳴っていたのとは桁違いだった。もはや今のはお腹の音ではないのでは?
はっとして横を見ると、ティティは笑いを堪えているのか顔を逸らして肩を揺らしていた。
「くっふふ、さっさと食べなよレーベラ。」

顔に熱が集まったのがわかった。

「仕方ないでしょ、ずっと立ちっぱなしだったんだもの!」
必死に反論するも、彼女は依然として肩を揺らしたままだ。
くっ、恥ずかしい…

ぷっ、と、横で彼女のとは違う笑い声がきこえて、今度は誰だと振り向く。

「お腹すきすぎだろお前、ふっ、これやるよ、ははっ。」

色素の薄い金色の髪をゆらして、あの純血メンバーのマルシベールが笑っていた。
彼は自分の皿の焦がしチキンをフォークで刺し、私の皿へとやった。

「あ、…え、あ、ありがとうございます」
あまりに意外な行動に私は目を丸くして礼を言う他なかった。
しかも同じ学年なのに本能的に敬語になってしまった。
先程の威圧的な態度とは違って砕けた笑顔を見せる彼に少し驚く。

ほかのメンバー達は気づいてないようで談笑を続けているようだ。
マルシベールは私の皿にそれをのせると、すぐにその輪へ戻って行った。

「へぇ、なんか意外ね」

ティティが一連の様子をみていう。
たしかに、思っていたよりかは良い人であった。(肘の件は忘れていないが)
普段からマグル生まれに対して冷酷に接している態度しかみてないせいだろうが、私の認識より接しやすい人間で驚いたのだ。

「まあ、そんなことよりはやく食べなよ。」

ティティのその言葉のとおり私は早々とフォークを持ち、マルシベールがいれてくれた焦がしチキンを口に運んだのだった。

「ん、美味しい…」




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