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▼ 万能薬をあなたに

※少し差別的描写があります。

私がホグワーツに初めて来た日、
今までにない感動を覚えた。それを今も鮮明に覚えている。
『ホグワーツの歴史』で読んだ大広間の夜空に、初めて見るユニークなゴースト、たくさんの同級生、寮のふかふかなベッドに、急にぱっと現れるごちそう…
これからのホグワーツでの暮らしに期待を膨らませ、同室になったティティとその感動を語り合い、興奮しながら城内の様々な場所を探検した。
私は特に友達作りが得意な訳ではなかったが、ティティやその他数名のスリザリン生徒と友達になれて、それなりに順調であった。
私は特に授業を真面目に受けた。そうするまでも無く、授業は興味深いものばかりで熱中していた。
初めてのテストが返ってきた時にとても嬉しかったのを覚えている。

ホグワーツに入って気づいた事だが、スリザリンは他寮との交流が少ない寮だった。それもそのはずスリザリンは、他の寮よりも名家の出が多く、魔法族の血の濃いものが集まっていた。やっかみや嫉妬が向けられやすい寮であったのだ。
そのスリザリン寮の中でも私は成績もそれなりに良く、女であり、そして気弱そうな人間だった。
目をつけられるのは時間の問題だった。
スリザリンで私のような人間はめずらしく、普段目立って攻撃出来ないもの達は私を侮辱するような言葉を囁くようになった。ガリ勉だとか、家の名前だけだとか、そのようなこと。
しかし目立った事はされなかった。陰口や多少の気づきにくいような嫌がらせだった。

私は数人の大切な友達と、学べる環境さえあればそれでいいと思っていた。

しかし最近になって嫌がらせは目に見えてひどくなった。
授業で、先生に以前より目立って褒められるようになったからだろうか。レギュラスに教えてもらってからはレポートはO以外は取らなかった。

嫌がらせは陰湿で、陰口は勿論、魔法史の教科書が鏡文字になったり、薬草学の授業で、イモムシのしっぽを勝手に入れられ、溢れてしまったり、授業に支障がでてきている。

目の前で私の腕に塗り薬を塗りつけているレギュラスを見つめながらぼんやりと最近のことを思い出した。

「次からは…こんな馬鹿なことしないでください。」


「うん、ありがとう。」

塗り終えたレギュラスは、几帳面に揃えられた小さな壺の、『火傷薬』とラベルが貼られたものに蓋をした。

「レギュラスは優しいね。」

医務室に行かないだろうと、自分の薬を持ってきて塗ってくれたレギュラスは、以前の印象とはだいぶ違っていた。

「…どうでしょうかね。貴方のことを見て見ぬふりをしていましたし。」

作業を止めずにそう呟いた。

レギュラスは私が最近嫌がらせを受けていたことを知っていたんだろう。同じ学年ではないし、きっとはっきりとは知らないだろうが、コミュニティの小さいホグワーツでブラック家だと、なにかと耳に入るのだろう。

「レギュラスが気にかけなければいけないことじゃないもの。それに手当をしてくれたわ。」

レギュラスは少し俯いて、黙り込んだ。
本当にそう思っている。他人の世話を焼くほど私達には時間が無いと私が1番思っているから。


「僕はあなたの事嫌いじゃないですよ。」

絞り出すように、目を合わすことも無くレギュラスはそう言った。
そして壺の入った箱を抱えて、談話室の石畳の階段を下っていった。


レギュラスの遠回しな慰めのような言葉に思えた。

少し胸がぎゅっと暖かくなって、傷も心も随分癒えた気がする。

「よしっ」

一息すいこんで、メモ書きと教科書を手に持って、談話室を出た。





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