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▼ 慣れない温度

慣れない温度

10話

「ねぇ、シリウス、昨日一緒にいた女の子だれ?」

眠い目を擦って手を動かし、フォークでウィンナーを刺し口に運ぶ。
昨日の夜からずっとこんな調子だ。
うまくやれたつもりでいたが、どうやらそうではなかったらしい。こんなことを聞いてくるやつが朝から絶えない。
幸いアイツの方はバレていないようだが、答えると余計面倒なことになるのはわかり切っている。

「ねぇ、きいてるの?」

「だから、ただの友達だっていってんだろ。」

友達すら怪しい関係ではあるが、面倒臭いのでそう言う。
不満そうな顔をしてこちらを見つめてくるのを無視してシリアルを掻き込んだ。


昨夜。
眠りこけたバレンシアをホグワーツまで運んだはいいものの、スリザリンの寮の場所が分からないことに気付いた。

時刻はもちろん消灯時間を過ぎていて、遠くに狼の遠吠えがきこえた。

「…さみぃ」

自分のローブをバレンシアに被せおぶり、暗い廊下に吹くすきま風に凍えた。
唯一暖かいのは背中の温もり。

既視感だろうか。
この鼻先が冷える感覚とただひとつの温もり、背中の温かさが、なんだかとてもなつかしかった。
たしかこんな風、あの時も
俺と同じ瞳と髪、少し幼い同じ顔が、はしゃぎ疲れて眠っていた。

「……ぶらっく?」

耳元で掠れた声が聞こえ、振り向く。

「ごめんなさい、……私、寝てた…?」

ぼんやりとした開ききらない鶯色の瞳が俺をみる。

きっと今までじゃみせなかった表情のバレンシアに少し面食らう。

「バタービールで酔い潰れるなんてな」

誤魔化すように鼻で笑ってみると、
後ろから抱きしめるような体勢でいたバレンシアが、俺の視界に身を乗り出した。

「バタービール、美味しかったわ…!」

俺のマフラーでぐるぐるになったバレンシアは不格好で、子供のようにみえた。
なんとなくその頭の上に手を置いた。

「ガキかよ」

きっとまだアルコールが残っているのだろう、幸せそうに相好を崩している。

「戻るぞ」

腰を上げようとバレンシアに手を差し出す。

帰りたくない、とでも言うような顔でこちらを見上げたが、無理矢理と手を取って起き上がらせた。


不満そうな顔をしているバレンシアの頬をつまむ。

「またいつでもいけるだろ」

そう言うと、少し驚いたように目を丸くさせたあと、目を逸らして嬉しそうに口元を緩めた。







「ねぇ、なら今度私と一緒にいかない?」

「あぁ、気が向いたらな。」

適当に流してその場を凌ぐ。
行き先不明になった会話を放置してジェームズの方をみると、緩んだ顔で持っていたフォークを顔の横でふりふりと振った。
昨日のホグズミードはなんとかエヴァンズに同行出来たようだ。


その顔面に無性にイラッとして目を逸らすと栗色の長い髪が視界の端にうつる。

「あ。」

昨日の幸せそうな顔はどこへやら、普段の堅物そうな顔に、いや、いつもより顔色が悪い。
もう食べ終わったのだろうか、皆が食べ始める時間にも関わらず、バレンシアは足早にそのまま食堂の出口へと消えていった。

調子が悪いのだろうか。


「俺、もういいや」

そう言ってベーコンが刺さったままのフォークを皿の上に放り出し、椅子を引いて立ち上がる。

「もうって、今食べ始めたところじゃ…」


「それやるよ」


はあ?っと呆れる声を背中に俺は歩みを速めた。




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