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▼ すべてのはじまりは


1話


「あああああ!!」

頬をかすめるかぜに温かさが感じられる春。
そんな日々でも少し肌寒い、ここスリザリン寮では女の悲鳴が響き渡った。

しかし、なにごとかと様子を見るものは居らず、皆またか、といつもの事のようにそれぞれの日常に戻る。


叫んだ張本人であるレーベラは鏡台の前で絶望して立ち尽くしており、その横には同居人の黒猫がふてぶてしい顔でゆっくりと尻尾を左右にふっていた。

「こんの、アホネコー!」

少し半泣きになりながら、黒猫を睨みつけた。

「うぇっ、酷い色だわ…さいあく」
彼女の自慢のブロンドヘアは漆黒に、それもマダラに染っていた。
同居人のペットの黒猫の仕業だ。
入学当初レーベラがこの黒猫の尻尾を踏んでからというものの、彼女と黒猫の間では度々、いや結構な頻度でなにかしらの争いがあった。

「レーベラ!その髪どうしたの?!」


彼女の髪の焦げたような匂いに、ドアを勢いよく開けて入ってきた同居人もその匂いに後ずさる。

同居人が冒頭の叫び声をきいて、急いで階段をかけてきたようだ。
どうやら相当急いできたらしい彼女はネグリジェも着崩れていて、髪も半乾きであちらこちらにはねていた。

しかし彼女は身なりより自分の部屋の安否の方が気がかりだったようだ。

「ジェナ!!!私の髪の毛がぁ!」

同居人のジェナにレーベラは泣きついた。
ジェナに服に着くからと引き剥がされ、不貞腐れながらわけを話始める。
「私が香水を付けてたらあの猫があそこの瓶を…!」

「つまり、調合失敗した薬をうちの猫にこぼされたのね…」

ごめんごめんと、ジェナに頭を撫でられるのはいつもの光景だ。
しかし結構どっちもどっちな戦いなので最初は謝り倒していたジェナだが、口を出すことを諦め適当に間を見て宥めるくらいにはなった。
少し落ち着いたレーベラはとりあえず洗い流してくる、と言って洗面所に向かっていった。

レーベラを見送ったジェナは部屋を見回す。
視界の隅に黒い尻尾が揺れるのをみつけ、不貞腐れている黒猫にコラと軽く小突いた。

ーーーーー

「はぁ……」


洗面台の前で盛大なため息をつき目の前に映る自分を見つめた

ある程度洗い流したのに髪の毛は漆黒に染ったままだ。
彼女の美しいブロンドの髪がマダラに染ったそれは酷く不格好で、おしゃれが大好きで髪に自信のある彼女の気分は急降下していた。

消灯時間までまだ20分ほど時間がある。医務室に髪色を治す薬はないが、それに似たようなのがあったはずだ。
マダムピンスになんとか言って貰うしかない。
そう思ったが先、
レーベラはローブを深くかぶって談話室におりた。


音を立てて階段を滑り降り、石畳の壁が開くのをいつもより焦れったく感じて開く前に滑り込むように抜けた。

消灯時間まで20分弱。
医務室まで普通に行ったら階段も待たないといけないし、往復20分以上はかかるかもしれない。

たしかここの通路の奥には隠し道があったはずだ。

レーベラは急いでそこに入った。

昼間ここを通った時はさほど感じなかったが、相当暗い。
一切光が入らないそこは少し陰鬱な雰囲気だった。



湖水が真横にあるせいか苔がところどころ生えている。

時々水中人の声が低く反響して響き渡り、この上なく不気味だ。

「悪趣味な通路ね…」

1人誰に対してかもわからぬ悪態をついた。

なんとか足早にそこを抜けると、迷路のような分かれ道が続いていた。
昔偶然見つけた時の記憶を辿る
たしか、前行った時は右右左左右だったはず。

深くかぶっていたローブが鬱陶しくなってきたが、念の為また深くかぶり直す。
改めて見てもこの髪の惨状はひどいわ…。

レーベラはまた盛大にため息をついた。

ため息が石壁に反響して、思ったより響いた。
この道はよく響くわね。
そんなことを思いながらコツコツと足音をたてながら進む。



『ーーーーー』

一瞬、なにかが聴こえた気がした。


音のした方に耳を傾ける

『ーーっーー』

確かになにかがきこえる。
先程までの水中人のような声ではなく、人間のような声だ。

何故かそれがとても気になってレーベラは声のする方へ足を向けた。

なんだか、懐かしい声だわ


静寂のなか、レーベラの硬い靴底の音が響く。

時折あの声が聴こえて、耳をすませて道を選んでいく。

だんだん鮮明に聴こえてくるそれは
言葉としてしっかりとラルーシャの耳に入ってきた。
『My doll…Throw all away the weir…』
と、はっきりと意味を成す言葉に聴こえた。
よく聴くとそれは何かの歌であるように音色が着いている。
しかし何故か同じフレーズを繰り返しているそれにレーベラは違和感を覚えた。

しばらくすると行き止まりについた。
石畳のこの奥からたしかに声が聴こえる

「reveal your secret 汝の秘密を現せ」

試しに呪文を唱えると、石畳がダイアゴン横丁の入口のようにカラカラとを動き出した。

石畳の奥に現れたのは、扉だった。
といっても、取手等は無く、木製の扉をかたどった何かだった。

中央にはスリザリンのシンボルであるヘビのプレートが埋め込まれている。

扉を押してみるが、壁のようにビクともしない。

解錠呪文を唱えてもそもそも開ける鍵が無いので無理そうだ。

仕掛け扉であることは確かなので、呪文で開けるものなのだろう。

「こんなところまできたのに行き止まり…

…って、医務室!!」

あの声を聴いてから何故かすっぽ抜けてその事を忘れていた。

時計を見ると部屋を出てから15分ほど経っていた。
「もう、間に合わないし…。」

なんだかもうどうでもよくなってきた

こんなところ見回りも来ないだろうし、今日は諦めて明日の朝イチにマダムに見てもらおう。

とはいっても帰り道が分からない。
無我夢中で走ってきたせいだ。
「はぁ…」
本日何回目かも分からないため息をついた。
全てはこの忌々しい木製の扉のせいだ。

少し腹が立ったレーベラはその扉に蹴りを入れた。
相変わらずビクともしないし、むしろ自分の足の方がダメージを受け、扉をひと睨みする。

仕方なくレーベラは扉を背にして座り込んだ。

消灯時間、いつもならもう寝てる時間だ。

そう考えると一気に眠気を感じた。


『ーーThrow all away the weirーーー』

先程の歌声がまた聴こえた。
何故だろう、とても、眠くなる

この歌をどこかでー、聴いたような…。

『ーーーーMy dollーー』

そうだたしかこの続きは…

『…………see……again outside a wall』







ガチャッ


「うわぁああ!?」

レーベラは地面にずり落ちた。
もたれていた扉が急に空いたのだ。

背中を軽く打ったみたいで、じんじんする。
背中を擦りながら周りを確認すると

「ったぁー………ん?」

そこは部屋になっていた。
暗闇にいたせいか、へやのランプに目が眩んだ。

膝についたほこりを払い、立ち上がる。

「随分と素敵なもてなしね。」

皮肉も程々に部屋を物色する。

物々しい絵画の額縁は金で装飾されていて、細かなところまで作り込まれている。
同じように精巧な技術で装飾された棚には綺麗に手入れされているトロフィー達が並んでいた。
レーベラは、まじまじとそれらを見つめた。
ふと、鼻に酒の匂いが掠めた。
思わず顔を顰める。
視界の端に黒い影がみえて、横に振り向いた。

「……!」

レーベラの心臓が飛び跳ねた。
そこにいたのはスヤスヤと眠るトム・リドルだった。




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