裏口 | ナノ


▽ 歓迎会


一度は仲間を裏切り、パーティーを離れたクラトスが戻ってきた。
今日はそれを記念して、ささやかな祝宴が開かれていた。
一見和やかな夕食の席。
だが、皆の興味は、無言で食事を続ける天使、ただ一人に注がれていた。

*******

「いいこと? 彼の真意を確かめるまでは、本当に信用することはできなくてよ」
夕食が始まる前、リフィルは皆を集めて言った。
「今度彼が裏切ったら、私たち全員が危険な目に遭うわ。そこで、悪いけれど、彼の真意を確認させてもらおうと思うの」
そう言って彼女は、ごく小さな瓶を取り出して見せた。
それは、サイバックで開発されたという薬品。いわゆる自白剤だった。

「この液体を飲めば、どんな人間でも、尋ねられるままに、心の内を話してしまうそうよ。これを使って、クラトスの真意を聞き出そうと思います」
「それ……、命にかかわったりしないよな?」
心配そうに尋ねたのはロイド。
彼にとってクラトスは、実の父親でもあり、想いを寄せる人でもあった。
それを知っているリフィルは、彼を安心させるように、穏やかな口調で告げる。
「もちろんよ。副作用も特にないわ。飲めば15分ほどで効き始めるそうだから、皆も、この機会に、聞きたいことを聞いておきましょう」

その後、リフィルはその薬を、クラトスが使うグラスに入れた。
そして、乾杯用の食前酒を注ぐ。
クラトスは出されたそれを何の疑いも無く飲み、今に至るのだった。



あれから、20分ほどが経過した。
時間的にはそろそろ効き目が現れてもいい頃だ。
そこでリフィルは、それとなく話を切り出した。

「ねえ、クラトス。皆と離れていた間、寂しくはなかった?」

なるほど、それはなかなか自然な質問だった。
薬が効いていなければ、クラトスは即座に否定するか、無言のままでいるだろう。
だが、クラトスはリフィルをじっと見つめると、食事の手を休め、答えた。

「ああ。……寂しかった」

カシャーン、と、フォークの落ちる音。
「あ、わ、悪い!」
ロイドが、驚きのあまり、フォークを取り落としたのだった。
だが、他のメンバーも似たり寄ったり、驚きの表情を浮かべていた。

あの気丈なクラトスが、人前で「寂しい」などと、堂々と発言するはずがない。
どうやら、薬の効き目は確かなようだ。
予想通りの効果に、リフィルは、研究者としての血が騒ぐのを隠せない様子だったが、努めて冷静さを装い、さらに尋ねた。
「そう。それで私達の前に、時々姿を現したという訳ね」
「ああ……、一人で過ごしていると、無性に皆の顔が見たくなった。元気でいるかどうかも心配で……」
「それにしては、随分と素っ気なかったわね」
「すまぬ。しかし、もし私が皆と親しげに話していれば、必ずやユグドラシルの目に留まり、更なる危険に晒されただろう。あの時は、ああするしかなかったのだ……」

すると、その発言を、じっと聞いていたジーニアスが席を立ち、クラトスの傍らに駆け寄った。

「そうだったんだね! ごめんなさい、クラトスさん! 僕、すっかりクラトスさんを裏切り者扱いしちゃって……!」
「良いのだ、ジーニアス。私は確かに皆を混乱させ、傷つけてしまった。悪いのは全て私だ」
飛びつくジーニアスを抱きしめ、クラトスは涙を零した。
周りのメンバーも、つられて目を潤ませている。


そんな中、ゼロスは一人冷静に、その様子を見ていた。
クラトスが不在の間、メンバー達との橋渡し役として、彼に情報を流し続けていたゼロスには、彼の事情も、心情も、当然ながらわかっていたのだ。
だから、こうして聞き出すまでもなかった。
よって、それよりも、別のところに意識が行ってしまう。

(ふーん。なかなかスゲーな、あの薬)

堅物で恥ずかしがり屋の天使は、普段の交わりのときも、なかなか心中を明かしてはくれない。
抱いている側としては、もっと「これが気持ちいい」とか、「ここが感じる」など、素直な感想を言ってほしいものなんだが。
―――だけど、今なら。
ゼロスは、隣に座るロイドに、そっと耳うちした。

「なあ、ロイド。あの天使サマの態度、どう思う?」
「………えっ? ……どう、って……?」
ロイドは一瞬戸惑うようなそぶりを見せたが、すぐ、少し照れくさそうに言った。
「こんなこと言うのもアレだけど、素直なクラトスってのもいいよな、なんか」
「だよなぁ。思ったこと全部、言っちゃうなんて、すっごい美味しいシチュエーションだよな。ロイド君も、色々聞いてみたいことあるだろ? ここでは聞きにくいコトとか」
「ああ。まあ、それはあるけど」
ロイドの返事を聞くと、ゼロスは、口の端を上げ、楽しそうな笑みを浮かべた。
「じゃあ、この食事会が終わったら、俺達で、天使様の歓迎会してやんない?」

*******

食事が終わり、ひと段落した後、ロイドは、一人廊下を歩いていた。
ゼロスに指定された部屋へと向かって。

(ゼロスのやつ、歓迎会とか言ってたけど……、いったい何するつもりなんだ?)

実はロイドは、ゼロスの言っている意味を、いまひとつちゃんと理解していなかったのだ。
ゼロスの口調や態度から、もしかして、不埒な類の話かな、と思ってはいた。
だが、せいぜい聞きにくい質問をしてみる程度だと考えていた。

たとえば、ゼロスやロイドのことを、どのくらい大事に思っているか、とか。
一人旅している間、自分たちのことを、どんな風に見守っていてくれたのか、とか。

ところが、ドアを開けた途端、ロイドはそこに固まった。

「なっ……、なんだよ、これ?」
「あ、ロイド君。いらっしゃーい」

そこにいたのは、上半身裸のゼロスとユアン。
そして、全裸に近い格好でベッドに横たえられているクラトスだった。

「さー、じゃ、ロイド君も服脱いで、こっち来て」
「お、おい、歓迎会って、何する気だよ? それに、何でユアンがいるんだ?」
「何する気って、そりゃあ皆で、天使様の寂しい心を埋めるべく、可愛がってあげようかな〜、って。あ、こいつは勝手に入ってきたんだけどさ」
「いや、クラトスが心配で見守っていたところ、随分と楽しそうな話が聞こえてきたのでな。これはぜひとも参加させてもらわねば、と思ったのだ」
「……アンタ、それちょっとヤバくないか? ま、いいけどよ」
二人の会話に、ロイドはグラリと頭が揺れるのを感じた。

可愛がる。クラトスを?
しかも複数で。
――いきなりそんなことを言われても。

確かに、自分はクラトスが好きだ。
そういう経験だって、無いわけじゃない。
というより、シルヴァラントを旅していた頃は、むしろよく相手をしてもらっていた。
だが、複数でなど、初めてだ。
「あの……、俺、クラトスと二人っきりでしか、したことないんだけど……」

小声で言うロイドの背を、ゼロスはポンポンと叩いた。
「大丈夫だって。始めちまえば、何とかなるから。それに、天使様は、俺達みんなに抱かれたいんだもんな?」
するとクラトスは、躊躇しながらではあったが、頷いた。

「っていうか、クラトス、ゼロスはともかく、ユアンともしてたのか?」
問いかけるロイドに、クラトスは申し訳なさそうに俯いた。
「……すまない。この二人には、色々と面倒なことを頼んでいた。その見返りとして、体を求められたのだ。このような状況では、女性と関係を持つこともままならぬから、代わりに私を、と……」
「そーいうこと。ま、天使サマは、そこらの女よりずっとイイからな」
ゼロスがそう言うと、ユアンも頷く。
「同感だ。何しろ、こいつの体は極上だからな。……まあ、強いて言えばツレない態度がいまひとつだが、今日は素直に何でも答えてくれるのだろう?」
「ああ、もう可愛いったらないぜ〜。あ、俺サマは、可愛くない天使様も好きなんだけどな。たまには趣向を変えてみるのもいいよな」

ゼロスはクラトスに跨ると、その頬を撫でた。
「よしよし、今まで一人ぼっちで、寂しかったんだろ? 今夜は、アンタがもういいって言うまで、たーっぷり愛してやるから。……なあ、いいよな、二人とも」
「無論だ」
「ああ……、クラトスが、そうして欲しいなら……」
ゼロスの台詞に、二人は頷いた。



薬のせいで、その夜のクラトスは、一際素直で可愛らしかった。
三人はここぞとばかり、クラトスを抱きながら、質問を浴びせかけた。
普段なら、恥じらってとても答えてくれないであろうその数々に、クラトスは従順かつ律儀に答えた。

「なぁ、クラトス。もしかして、ちょっと乱暴に抱かれるの、好き?」
「んっ……、あ、好き、だ………」
「ほう。では、言葉で嬲られるのも、感じるか?」
「くっ、ん……、ああ……、酷いことや、イヤらしいことを言われると…っ、体が、熱く、なって……っ」
「へーぇ、天使様、やーらしいねェ。じゃあさ、かけられるのと、中に出されるのは、どっちが好き?」
「あ…っ、な、中に……!」
「はいはい。じゃ、お望みどおり、くれてやるよ」

饗宴は続き、クラトスは三人に、思う存分抱かれた。
何しろ、要望はすべて言葉で伝えたし、それに答えない三人ではなかったから。



そして、翌朝。
クラトスは、少しの窮屈さと気だるさを感じながら目を覚ました。
が。

「なっ……、何だ、これは……!?」

素裸のロイドとゼロスに挟まれ、やはり一糸纏わぬ姿の自分。
(いったい、何があったのだ……?)
どんなに考えても、昨夜のことが思い出せないクラトスは、どう見てもまともではない目の前の状況に、ただただ慌てふためくのだった。

その後、テーブルに置かれたユアンからのメモで、大体のことを察したクラトスは、しばらくの間立ち直れなかったという。

End.


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