気まぐれに短文
(主:高丘朝人/たかおかあさと)

主+ブ

「アサトー! はよーっす、きょーも寒ィなあ!」

 手を振り上げ、上杉は挨拶と共に高丘へ向かって歩いて来た。
 校門の前で足を止め、上杉を待つ。止まっても寒さは変わらない。ぶるりと震えた身体に、思わず首をすぼめる。
 長めのマフラーをぐるぐる巻きにしても、外気にさらされた顔は白い。赤く色付いた鼻の頭も、時折吐き出される白い息によって淡く隠れた。

「はよ。朝から元気だな、上杉」
「…………えーと、そんだけ?」
「ん? あー、久しぶり」

 並んで歩き出したかと思えば、上杉はぴたりと歩みを止めた。不思議に思った高丘が顔を向ければ、何ともいえない表情を浮かべた上杉と目が合った。

「いやいやいやいや! 他にあるっしょ、久しぶりもある意味あってっけど!」

 弾かれたようにまくし立てる上杉の勢いに、高丘は目をしばたかせた。

「アヤセ、エリーちゃん、マーク。マキちゃん、ゆきのさん、南条。そんで城戸!」

 ビシッという効果音が似合う勢いで、手袋をしたままの人差し指が高丘に向けられる。
 人を差すなという意味合いのつもりでそれを軽く叩くと、上杉の眉間にシワが寄った。

「あけおメールの着信順!」
「へぇ、城戸からも返って来たのか」

 返答を間違えたことに高丘が気付くまで、あと三秒。

「行き帰りはコートだとして。寒くねェのアヤセ」
「べっつにぃ。慣れじゃん?」
「すーげぇなぁ、女の子は」
「Skirtも、膝が隠れていると暖かいものですわ」
「そうだね。それだけでも大分違うんじゃないかい」
「へぇー。そーゆーモンなんか」
「たまに男子ずるいなあ、と思うこともあるけどね」
「でひゃひゃ、こりゃすんません」


「優花、今日は何個だい?」
「背中と靴下で二個ー。靴下はハイソとルーズの二枚履きだしぃ。園村は?」
「みっつ。貼るのをお腹と背中で、普通のがポケットだよ。エリーは?」
「私はお腹とポケットで二つですわ」
「まーったく、女の裏舞台を訊くなっての」
「まあ、いいじゃないかい」
「みてるだけで、寒そうにしてたもんね」

「っあーっ寒い! ありえねェっしょ、コレぇ。あーっ、あーっ!」
「黙れ、騒ぐな、見苦しい」
「いつもに増して辛辣だな南条。まあ、仕方ないか」
「フォローする気もねぇなぁ、高丘」
「……冬休みが短ェんだよな」
「うおっ、城戸がそういうこと言うの珍しいな!」
「おれ様はじめて聞いたし!」
「でも確かにこたつが恋しいところだ」
「ああ、いいな」
「うっかりそのまま寝ちゃったり」
「アイツ眠気を誘うんだよな。つい茶を飲まねぇで、起きたら冷めてたり」
「やるやる。それと、しけった煎餅が頂けないんだよな」
「あ? あー、俺は割と平気だな」

「どうしよマーク、かつてないほど盛り上がってンすけど、あの二人」
「しかもこたつトークだぜ……南条はいつの間にか帰ってっし」

主+マー+ブ

 足音に気が付き、高丘はゆるりと顔を上げた。
 窓際の壁にもたれ、座る彼の正面には教室の入口。開かれた戸は勢いよく桟に当たり、一際大きな音を立てた。

「こんなトコにいやがった」
「アサトも案外サボり魔っスね〜」

 一人は呆れたように、一人はニヤリと笑みを浮かべながら教室内に入って来た。声を掛けられた当人は微動だにせず、ただ涼しい眼差しを向けている。
 二人は肩を竦め、今度は静かに戸を閉めた。
 鮮やかな黄色の帽子を被った少年、稲葉が教壇に腰を下ろした。背を丸め、あぐらというには崩れた格好で落ち着く。
 額にゴーグルを付けた赤毛の少年、上杉は椅子を跨ぎ、背もたれを抱えるように座った。
 その様子を静かに窺っていた高丘に視線を向け、稲葉は疑問を投げ掛けた。

「今日は屋上じゃねェのな」
「寒いから」

 平然と返した高丘の声に、二人は思わずぎょっとした。
 発せられた声は普段耳にする音より低く、酷く掠れていた。声というには余りにも聞き取り難い。音を無理矢理喉にぶつけて外に出す有様に、聴き手側が痛みを伴ったような錯覚を受ける。
 実際、自分の喉を押さえる上杉は見事に顔をしかめていた。

「ひっでェ声だな。風邪か? ――あ、いや、いい。喋んな」

 高丘が口を薄く開くのを見咎め、稲葉はそれを制した。代わりに一つ頷くと、また一つ酷いなと零された。

綾+ブ

「アヤセ、おでんパーティだゼ!」
「ちょっと上杉ー。そんな楽しそうなの、アヤセ後回しぃ?」

 桐島に聞いたし。頬杖をつきながらぶすくれる綾瀬は、じとりとした視線を上杉に寄越した。
 悪い悪いと上杉が軽く謝罪する光景はいつも通り。表面上の悪態をお互い気にとめず、テンポの良い会話が進む。

「だってさ、アヤセは断んねェだろ〜?」
「そうだけど。……なんかムカつくー」

 口をニイと弓形に象る上杉と尖らせる綾瀬。相対する反応の二人は次の瞬間、おでんに対して語り合っていた。

 

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