smiley berry

シャッター音と共にスマホの画面に映ったのは白タキシードの青年の姿。
手袋を外したままで満面の笑みを浮かべる姿は良いオフショットと言えるであろう。オッケーだよ〜!とシャッターを切った嶺二が声を掛ければ真っ赤な髪を靡かせてありがと嶺ちゃん!と走って来る。

「いいっていいって、おとやん。これ位お安い御用だよん」
「どれどれ……わ、よく撮れてる〜!さっすがれいちゃん!」
「でっしょ〜!我ながら上出来、ってね!あと被写体が良かったからかな〜?」

そんなことないよ、と照れてみせる音也の奥にある撮影ブースでは同じように白タキシードを纏った翔が本格的な器材に照らされてシャッターを切られていた。今年のシャイニング事務所がタレントの誕生日に合わせて毎年発売するグッズのビジュアル撮影なのだが、今年のコンセプトはどうやら新郎という事らしく4月生まれの音也を皮切りに誕生日が早い嶺二と翔、那月が集まって撮影に臨んでいるのだが。

「愛しのあの子へ送るつもりかなあ?おとやん」
「ちょ、ちょっとれいちゃん小突かないでよ〜!」

嶺二の悪戯に逃げまどいながら真っ赤な自身を象徴するカバーを付けたスマホに振れる指は確実に送信への準備を進め、『じゃ〜ん!今回のビジュアル撮影!どうどう?』という文字とおんぷくんのスタンプ、そして画像と共に送信された。衣装にトラブルが起きないようにある程度の距離から鞄に向かってスマホを投げた音也はもうだめだよ、と嶺二の手を掴む。

「あんまり揶揄うの禁止!あ、俺が駄目だからって楓に振るのはもっと駄目!」
「分かってるよおとやん。かえちゃんは初心だからねえ」
「ほんとにほんとに駄目だからね!」

音也が投げたスマホが鳴ったのはその暫くした後。翔の撮影が終わり、那月の撮影が始まって嶺二が準備の為に翔と入れ替わりで抜けた頃の事だった。因みに撮影順が一番早い音也からなのではないのは単にスケジューリングの問題であり現場入りしたのが音也が一番遅かったからである。
翔と談笑している中バイブレーションの音を耳が拾い、スマホの画面を点ければ楓からの連絡の通知が入っていた。画像も一緒に添付されているようで、首を傾げながらそれをタップした音也は端末と連絡アプリ両方のロックを解除して――飛び込んできた画像にそれはもう目を真ん丸にしてスマホを落としかけた。携帯を御手玉するという傍から見れば愉快な事をしている音也に何してんだ、と翔が声を掛けるが、それをキャッチした彼はちょっと出てくる!とだけ言い残して廊下へ足早に向かいだす。

「ちょ、音也!どこ行くんだよ!」
「ちょっと電話するだけ!」
「はあ……ったく、衣装汚すなよ!あと直ぐ戻ってこい!」

分かってる、と鉄作りの扉を押し当てて人目の少ない所まで走った音也はすぐさま端末を開いて通話ボタンを押す。音也君?と穏やかな声が聞こえたのは割とすぐの事であった。

「楓!?そのドレスどうしたの!?」
「ま、待って音也君落ち着いて!?」

矢継ぎ早にそう聞いて落ち着けと言われてしまえば従わざるを得ない。
そう、音也のメッセージアプリに届いていたのはドレスコード姿の楓だったのだ。背景は彼女に宛がわれた寮の私室であったがその姿は華やかなそれで、学生時代に一度だけクリスマスパーティーで見た白いパーティードレス姿の彼女を思い出した。
袖があるタイプのそのドレスは花の形をあしらったような黒レースのトップスがあり、その下にワインレッドのハートカットのミニドレスを纏っている。腰元には大人っぽいデザインのワンアクセントとして正面にリボンが結ばれていた。花嫁より目立たないクラシックなものだが、それでも音也の赤を纏っている事には違いない。

「長い付き合いの友達がね、結婚するんだって。その結婚式にお呼ばれしたから頼んだドレスが今日来て試着してる所だったの」
「すっげーびっくりした……スマホ開いたら楓のドレス姿が真っ先に目に入ったからさあ」
「だからってお仕事中に飛び出してきちゃダメでしょう?」
「まだ待ち時間だったんだ。呼ばれるまで時間あるしつい……」

もう、なんて咎める声にごめんってという謝罪の声が響く。
それにしたって凄い偶然だ。新郎姿のビジュアル撮影の日に偶々楓が結婚式へのドレスを試着しているなんて、と告げればゆっくりとそうだね、と優しい声が返って来る。

「ねえ、楓。赤色のドレスを選んだ理由さ、俺、自惚れていい?」
「……自惚れていいよ」

まだ、『約束』を叶えられる日は遠そうだからせめてもとこのワインレッドのドレスを選んだと楓は語り、音也の胸にはじーんと感動が到来する。『約束』をしたのは、もう随分昔の話。早乙女学園を卒業して、必要な物を買い出しに行った時に音也が見とれた真っ赤なドレスと、その次に訪れた時に見た純白の花嫁のドレス。何時か、例え遠い遠い未来であっても。楓に似合うとクリスマスパーティーの時にも告げた真っ白なウェディングドレスと、お色直しに音也の色であり、彼の好きな色な赤を纏うと約束したのを、彼女はちゃんと覚えていたのだ。

「……へへ、どうしよ。俺今すっごい顔が緩んでると思う」
「忘れるわけないよ。音也君とした約束だもの」
「うん。分かってるけど、すっごい嬉しい。赤色は俺の色で、好きな色で、……そうだ、そうだよ。楓の色でもあるじゃん」
「私の色?」

だって彼女は縹楓。楓が紅葉で色づく色は、深紅である。
赤色は音也の色で、音也の好きな色で、約束の色で、楓の色。
二人にとって、特別な色。

「ねえ、楓。仕事終わったら楓の部屋行くからさ、そしたらそのドレス見せてよ」
「え、いいけど……なんで?」
「写真じゃなくてちゃんとこの目で俺達の色を着た楓が見たいから!」
「……わかった。じゃあ、部屋で待ってるからお仕事ちゃんと頑張って来てね?」

分かってる!という浮かれ交じりの力強い返事に小さく笑って、じゃあまたね、と楓からの通話は切れた。へへ、と緩み切った頬を何とか戻して、撮影ブースに戻れば翔の遅い!という声と、丁度嶺二がブースから此方へ戻って来る頃で。

「一十木さーん!お待たせしました、お願いします!」
「はい!此方こそ宜しくお願いします!」

もう一度掌に収まった愛しい恋人の姿を見てからぐっと顔を上げた音也はスマホを鞄に置いて撮影ブースへと意気揚々と向かうのだ。仕事が終わった後の最高のご褒美へ心を高鳴らせながら。



2020.04.11
Otoya Ittoki Happy birthday!!

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