ハーマイオニーがスリザリンの継承者に襲われた。それでハリーとロンがじっとしているはずがない。ライジェルは空いている時間があれば、ハリーとロンを探していた。あの二人は厄介事に足を踏み入れてばかりだから、きっと今回も何かしでかすのではないか、と思っていたからだ。テスト三日前だというのに、ライジェルはろくに勉強もせずにハリー達を探し回ってばかりだった。こんな時に、勉強なんてしていられない。

「──戻って授業の準備をしないといけないんでね」

 とある休み時間、ライジェルはようやくハリー達を見付けることができた。ロックハートと一緒にいることにライジェルは一瞬顔を歪めるが、ロックハートが去っていくとすぐにハリー達に追いついた。

「おい、ポッター、ウィーズリー!」

 ライジェルが背後から二人を呼び止めると、二人はぎくりとして振り返る。

「あ、ブラック。これは、その……」

 何やら言い訳をしようとしたロンには見向きもせず、ライジェルはハリーに詰め寄った。

「今度は何をするつもりだ。え?また無闇に行動をとって巻き込まれるのか」

 図星、とばかりにライジェルから視線を背けるハリーに、ライジェルは一つ盛大にため息をつく。

「全く、お前らは本当にどうしようもない奴だな。……私も一緒に行く」

 スネイプのところに連行されるのではないかと考えていたハリーとロンは、ライジェルの言葉に耳を疑った。

「何だって?」
「お前ら二人ではどんな馬鹿なことをしでかすかわかったものじゃない。一人は目付け役が必要だろう。ほら、行くなら早く行くぞ」

 呆気にとられる二人に、ライジェルは先を顎で指した。

「どこへ行くんだ」
「嘆きのマートルがいる女子トイレだ」

 三人が早足で女子トイレへ向かう途中、ロンは、思ったんだけど、とライジェルに話しかける。

「ブラックって、意外に無謀なこと好きだよな。去年も今年も、一緒についてきてくれるなんてさ」
「馬鹿言うな、お前達と一緒にされるとは心外だ」

 ロンの言葉をライジェルは否定した。

「だいたい、お前らはやること成すことが突飛なんだ。この前のクリスマス休暇も、お前らクラッブとゴイルに成り済ましていただろう」

 どうせ魔法薬か何かを使ったんだろう、とライジェルが続けると、二人は互いに顔を見合わせた。

「ブラックは心を読める力でも持ってるのか?」
「これくらいお前らの行動を見ていればわかるに決まってるだろう」

 ブラックはシャーロック・ホームズか、とハリーが思った時、三人の前にマクゴナガルが姿を見せた。

「ポッター、ウィーズリー、ブラック!何をしているのですか?」
「僕達──僕達──」

 マクゴナガルの問いに、ロンは言い訳を探していた。

「先生、もうずいぶん長いことハーマイオニーに会っていません。だから僕達、こっそり医務室に忍び込んでハーマイオニーに、マンドレイクがもうすぐ採れるから心配しないように、って言おうと思ってたんです。ブラックは去年のあのトロールの事件の時からハーマイオニーとは知り合いで、二人とも頭がいいこともあって親しかったらしくて、一緒に来たいと言ってついてきてくれたんです」

 真っ赤な嘘だった。ハリーの口からすらすらと嘘が出てくるのをライジェルは感嘆していた。ここまで頭が回るとは思っていなかった、ポッターは思っている以上に頭がいいのではないか。

「そうでしょうとも。襲われた人達の友達が一番辛い思いをしてきたことでしょう。よくわかりました、ポッター。ミス・グレンジャーのお見舞いを許可します。ビンズ先生には私から欠席とお知らせしておきます。マダム・ポンフリーには私から許可が出たと言いなさい」

 マクゴナガルはハリーの嘘にまんまと騙されたようで、目から涙がこぼれるのを三人は目にした。

「ハリー、君の作り話の中でも最高傑作だったぜ」
「そうだな。よくあの状況でマクゴナガル教授相手に嘘がつけたものだ」

 三人は仕方なく予定を変更して、医務室にハーマイオニーのお見舞いをすることにした。

「ハーマイオニーが自分を襲ったやつを本当に見たと思うかい?だって、そいつがこっそり忍び寄って襲ったのだったら、誰も見ちゃいないだろう……」

 ロンの言う通りだった。だがハリーはロンには相槌を返さず、何やらハーマイオニーの右手に興味を示していた。

「どうしたポッター」
「見て。ハーマイオニーが何か紙みたいなものを握ってる。ロン、取れるかい?」

 ハリーの言葉にロンはどうにかしてハーマイオニーの手からそれを破らないように引っ張り出した。図書館の古い本の一ページを切り取ったものらしく、紙にはバジリスクという怪物についての記述と、パイプ、という走り書きがある。

「ロン、ブラック、これだ。これが答えだ。スリザリンの継承者だけが開ける秘密の部屋の怪物はバジリスク──巨大な毒蛇だ!だから僕があちこちでその声を聞いたんだ。他の人には聞こえなかったのに。僕がは蛇語がわかるからなんだ……」

 それからハリーが続けた言葉に、ライジェルはハリーに目を見張った。ハリーの言っていることが本当だとしても矛盾はない。

「だけど、バジリスクはどうやって城の中を動き回っていたんだろう……」
「恐らく、グレンジャーはわかったんだろうな」

 ロンの問いかけに、ライジェルはハリーの持つ紙を指差す。

「城の中のパイプ、配管を使っていたんだ」
「うん。僕には壁の中からあの声が聞こえてた」

 それから三人はマクゴナガルのところへ行こうと職員室に来た。だか、マクゴナガルの声が城中に響き渡った。

「生徒は全員それぞれの寮にすぐに戻りなさい。教師は全員、職員室に大至急お集まり下さい」

 三人は互いに顔を見合わせた。

「何かあったのか」
「また襲われたのか?今になって?」

 ハリー達は、先生達のマントがかかっている洋服掛けの中に身を潜めた。

「ポッター、もう少し向こうにつめられないのか」
「無理だよ、こっちもきついんだ」

 ライジェル達がひそひそと小さな声で会話していると、教師達が次々と職員室に集まってきた。

「とうとう起こりました。生徒が一人、怪物に連れ去られました。秘密の部屋そのものの中へです」
「誰ですか?どの子ですか?」

 マクゴナガルの声に、マダム・フーチが尋ねた。

「ジニー・ウィーズリー」

 ライジェルは、ロンがその場で崩れるように座り込むのを感じた。

「全校生徒を明日、帰宅させなければなりません────」

 それから先は、聞いていないようなものだった。ロックハートが空気の読めない発言をしながら職員室に入ってきて、スネイプがロックハートに集中攻撃するのも、ハリー達は頭が働かずに聞き流していた。特にロンは、自分の妹が連れ去られたと聞いて顔が真っ青だ。

「とりあえず、一度寮に戻るぞ」

 ライジェル達はそれぞれスリザリン寮とグリフィンドール寮に戻った。スリザリンの生徒達は既に荷造りを始めている。ライジェルは女子寮のベッドに座っていたが、先ほどロックハートが秘密の部屋に向かうように言われていたのを思い出した。

「あの男なら、すぐに逃げ出しそうだな……」

 そうすれば、ジニー・ウィーズリーはこのままバジリスクに連れ去られたまま殺されてしまうかもしれない。ライジェル自身はジニーのことなどどうでもよかった。が、さっきのロンの具合を見て、見捨てられなくなったのだ。ライジェルはポケットに杖を入れ、ロックハートの部屋へ向かった。


prevnovel topnext

- ナノ -