二月十四日、つまりバレンタインデーの日。ライジェルが大広間に向かうと、大広間は趣味の悪い飾り付けが施されていた。

「パンジー、一体これは────」

 スリザリンの席のパンジーにライジェルが話し掛けようとした時だった。

「ライジェル・ブラックにポエムのメッセージがあります!」

 何だかよくわからない小さな小人のような生き物がライジェルの元に来た。

「何を────」
「ライジェル、愛しい人よ
いつも君を見ているよ」

 小人は広間全体に聞こえるような大きさの声で、知らない男子生徒からの恥ずかしいポエムを朗読し始めた。瞬間、ぼん、とライジェルの顔が羞恥に真っ赤になる。スリザリンを含めた全ての寮のテーブルから、吹き出すような音が聞こえる。

「君のことは全て知ってる
僕だけのものになってほしい
OH……流れるようなつややかな黒髪
きっと君は────」
「ステューピファイ!」

 耐え切れなくなって、ライジェルは小人に杖を向けて失神呪文をかけてしまった。耳まで真っ赤になったライジェルは小人を引っつかみ、小さな声で呟いた。

「こんなふざけたポエムを朗読させた奴を見つけたら血祭りにあげてやる……」

 殺気立ったライジェルは、まだ近くで笑い転げているグリフィンドール生をきっと睨んだ。

「ライジェル、その……あー……災難だったわね」

 パンジーが横に座るように促し、ライジェルはそれに従う。

「ロックハート先生がこの小人を学校中に放ったみたい。きっと今日は悪夢よ。ほら、あなた以外にも被害に遭ってる人がいるみたいね」

 パンジーの視線をライジェルが追うと、そこには四体の小人に迫られているセドリックの姿があった。

「顔がいいってこういう時面倒くさいわよね。私は今日に関しては美人じゃなくてよかったわ」

 パンジーの声をバックに聞きながら、広間から逃げていくセドリックを見るライジェルは、セドリックに同情の目を向け、そして自分もあんな被害に遭うかもしれないと頭を抱えた。
 ライジェルの危惧した通り、その日一日はライジェルにとっての厄日だった。授業中にもライジェルの元にたくさん小人は来た。その度にライジェルは小人に何かしら魔法をかけて、ライジェルはその小人を窓からぶん投げる、という行為を繰り返す。最初は笑っていた同じ授業をとっている生徒も、さすがに授業中にライジェルの元に来る小人が五匹を超えたあたりからライジェルに同情の視線を送るようになった。ドラコ目当ての小人が乱入した時、ライジェルは自分に来た小人ではないのにその小人に黙らせ呪文を放ち、小人が一言も喋らないうちに小人を窓の外に吹っ飛ばした。
 午後の魔法薬学の授業中に、またもやライジェルの元に小人が来てメッセージを読み上げようとする。これでもう何度目になるかわからない作業にライジェルはため息をついて杖を取り出す。

「ライジェル・ブラックにメッセ──」
「オブリビエイト」
「ステューピファイ」

 ライジェルが小人に忘却呪文をかけるのとスネイプが失神呪文をかけるのは同時だった。

「スネイプ教授、これは魔法薬の実験に使えるとお思いでしょうか」
「ふむ、試してみる価値くらいはあるかも知れんな」

 我輩の授業を妨害した罰だ、とばかりにスネイプは小人をかごに閉じ込めて準備室に持って行った。

「おいおい、マジでやる気かよ……」
「スネイプのことだ、きっと毛だけじゃなくて血とか肉を使ってやるさ」

 同じ教室にいるハリーとロンはひそひそと話し合う。

「それより僕は、あのスネイプとブラックの意気が統合してることと、それくらい小人にいらついているブラックが怖いよ」
「……確かに」

 ハリーとロンはそっと、殺気立っているライジェルの後ろ姿を見て、絶対に今日はライジェルに関わらないようにしようと誓った。
 そのまま季節は春になり、イースター休暇に入った。それまでスリザリンの継承者による新たな被害者は出ることなく、ホグワーツはほんの少しだけ緊張が解れていた。ライジェルはドラコ、パンジーと一緒に来年度の選択科目について話し合っていた。ちなみに、三人の選択肢にマグル学は元より入ってはいない。

「どうしよう。占い術か、それとも数占いの方がいいのかしら?」
「私は占い術にする。数占いも気になるが」

 三人は何とか選択科目を決めてスネイプに書類を提出した。
 次の土曜日、ライジェルはクィディッチの試合を見に行こうと身支度をしていた。

「ライジェル、今日の試合はグリフィンドール対ハッフルパフよ。スリザリンの試合じゃないのに何で見に行くの?」
「ハッフルパフにちょっとした知り合いがいてな。応援すると約束したんだ」

 知り合いというのは言わずもがな、セドリックのことだ。ライジェルはハッフルパフの応援席へと向かった。黄色の中の緑のライジェルは目立っていたが、ハッフルパフの生徒は自分達を応援するのだとあまり気に止めなかった。そして試合が始まろうとした時、グラウンドにぴりぴりしたマクゴナガルの声が響いた。

「この試合は中止です。繰り返します、この試合は中止です────」

 グリフィンドールの生徒もハッフルパフの生徒もライジェルも、何が起こったのかと動揺した。

「ほら、今すぐ寮に帰りなさい!」

 引率の教師により無理矢理グラウンドから引っ張り出されたライジェルは、首を捻りながらスリザリンの寮に戻った。

「ライジェル、クィディッチの試合は?」
「中止だ」

 戻ってきたライジェルの言葉に、他のスリザリン生達はざわめいた。どれだけ酷い雨の日も風の日も、クィディッチが中止になるなんてことはなかったから。

「諸君、静粛に聞きたまえ」

 いつものようにローブをひるがえして寮にやってきたスネイプは、スリザリン生達の前で言った。

「新たに石になった生徒が二人出た。我輩は寮監であるゆえ、自寮の生徒は守らねばならん。くれぐれも独りよがりの馬鹿な行動をとって石にならないようにすることですな」

 スネイプはそれだけ言い捨てて、またスリザリン寮を去っていこうとした。

「先生、聞いてもいいですか」

 だがドラコがスネイプを呼び、スネイプは足を止める。

「何かね、マルフォイ」
「襲われた生徒は誰でしょうか?」

 女子寮に戻ろうとしていたライジェルは、その問いに反応して聞き耳をたてた。

「レイブンクローのペネロピー・クリアウォーター、そしてグリフィンドールのハーマイオニー・グレンジャーだ」

 ハーマイオニーの名前を聞いて、ライジェルは目を見開いた。ハリーじゃない。ハリーなら友人のハーマイオニーを襲うはずがない。

「どういうことなんだ……」

 学校中は被害者の話で持ち切りだったが、次の日の、試験は通常通り行われるという発表に興奮が一気に冷めた。

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