平日の放課後、一人で温室にいたライジェルは、もう一度ホグワーツとボーバトンとダームストラングの三大魔法学校対抗試合の歴史を洗い直してみていた。一度目に調べた時にわかったことは魔法生物が出題されるということくらいだが、さらに見てみれば他にも何かヒントを探し出せるかもしれない。あと二ヶ月以上猶予があるからといって、のんびりなどしていられない。前回のことがあり、ライジェルは没頭はするができるだけ心に余裕を持っているように心掛けているようにしている。
 それにきっとクリスマスダンスパーティーの直前はこんなに自分のこと以外に時間を割いていられないだろう。ライジェル自身とジークに恥をかかせないためにもダンスの練習をしなければならないし、他にも、まさか学校の行事とはいえパーティーに行くのにいつものように髪を下ろすだけというわけには絶対にいかないから髪のセットを考えることも忘れるわけにはいかず、ドレスだって────そこまで考えた時、ライジェルははたと気がついた。私は、ドレスに何を持ってきただろうか。どうせクリスマスには帰省するのだからドレスなんざ着るわけないだろうと思っていたため、ほぼ確認もしないままに適当に選んでしまったのだ。

「嫌な予感がする…………」

 どうも落ち着かなくなって調べ物を放り出して寮に戻り、家から持ってきたトランクを開けたライジェルは、ぴしりと固まった。

「嘘、だろ…………」

 紫がかった茶色の生地に、世辞にも綺麗とは言い難い悪趣味なレースがこれでもかとばかりに縫い付けられている。適当に選んだにしても、これは酷すぎる。絶対にこんなものダンスパーティーに着ていけない。ライジェルの背にひやりとしたものが伝った。





「で、私に泣きついてきたってわけね」
「頼む、助けてくれ…………」

 夕食の席で、泣きそうな顔で頼み込んできたライジェルにパンジーは驚いた様子だったが、すぐに落ち着きを取り戻した。

「全く、ちゃんとしたドレス選んできなさいよ……」
「絶対着ないと思ってろくなものを選んでこなかったんだ」

 ドレスをいいかげんに選んだ時にレギュラスはその場にいなかったものの、クリーチャーがついていてくれたはずだ。あの時にクリーチャーの顔が引き攣っていたように見えたのはこういうことだったのか。

「何か遭った時のための替え……なんて持っているはずないだろう?」
「そんなの誰も持ってないでしょうよ。それに、私とライジェルでは体格というか背丈とかが色々と違いすぎるし、多分私のドレスはライジェルの趣味には絶対に合わないわ。ピンクのフリルだらけのドレスを着たいって言うなら話は別よ。でもそんなの着ないでしょ? 私のは貸せないわね」

 こんなことなら何としてもジークからの誘いを断っておけばよかった、とライジェルは後悔するが、今さら何を言ったところでもう遅いのだ。後悔するくらいなら何か対策を考える方が時間を有効に使える。

「私じゃなくても、ライジェルと同じくらいの身長の人に頼んでみれば?」
「いや、みんなそれぞれ着る予定があるだろうし、借りるというのはやめておく。それにそんなのがグリフィンドールの監督生なんかに知られてみろ、どうせ学校に忘れ物をしてくるなと減点されるのが落ちだ。早いうちに何か新しいものを購入しようと思ってるんだが」

 こうなったら次のホグズミードで何か調達するのがいいだろう、とのライジェルの考えは次のパンジーの言葉にばっさりと切り落とされた。

「でも、ドレスなんて取り扱ってるところはそうそうないわよ。ホグズミードだって、普通の洋服の店はあるけれど、ドレスなんて扱ってるところはそうそうないわ」

 一瞬で望みを絶たれたライジェルががっくりと肩を落としたのを見て、周りは何だ何だとライジェルをちらりと見るが、ライジェルが背負っているついこの前と同じどんよりとした空気のせいもあって声をかけることはない。

「私が裁縫得意ならよかったんだけどね。ライジェル、裁縫できる?」
「裁縫なんてうちの屋敷しもべ妖精がやってくれるのに私がするとでも?」

 こりゃ駄目だ、とライジェルとパンジーは同時にため息をついた。頼むのも駄目、作るのも駄目。ならば一体どうすればいいのやら。

「…………いっそ、男物でも奪うというのも……」

 あの野暮ったいドレスを着るよりは男物のドレスローブを着た方が何倍もマシだ。ライジェルがちらりと視線をやった先にいるのは、ライジェルよりもほんの少し低いくらいの背丈のドラコ。ライジェルに見られていると気づいたドラコは何なんだと首を傾げる。まさかライジェルがドラコの持ってきたドレスローブを奪って着てみようかと思っているなどとは知る由もない。

「…………よし、わかったわ。ライジェル、今週末、いいえ明日、あなたは厨房にいる屋敷しもべ妖精のところに行って。そこで、ホグワーツにいる屋敷しもべ妖精の中で一番裁縫が得意で上手な妖精を探してきて。私は私でちょっと用事があるから」
「裁縫って、あいつらはホグワーツの仕事があるんだぞ。それにもう三週間も猶予はないのに」
「とにかく任せて。ホグワーツでは何十匹何百匹もの屋敷しもべ妖精が働いてるのよ。一匹くらい欠けたってそれほど支障はないはずだわ。だいたい、授業がある私達よりもあれらは時間があるの。大丈夫、きっと何とかなるわ。もしどうしても無理だったら、風邪を拗らせたことにでもしちゃいなさいよ」

 私に任せて、とにっこり笑ったパンジーは、根拠も何もないのに自信ありげで、だが何故かライジェルにはとても頼れそうに見えたのだ。


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