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 煉獄先輩と再会するには、それなりの季節を経る必要があった。
 具体的には先輩が卒業した翌年、私も卒業してからさらに二年が経った頃。
 学生気分も卒業し、社会人の自覚が芽生え、適度に世間に嫌気がさしはじめた私たちが同窓会という名の飲み会を開いた夜のこと。
 私たちの第一回上司愚痴大会〜悪辣上司頂上決勝戦〜へ、先輩が飛び込んできたのだ。
「ここで飲んでいると連絡をもらってな! ちょうど近くにいたので、顔を出させてもらった」
 先輩は学生時代より、さらに大人っぽくなっていた(白いシャツとネクタイがそう思わせたのかもしれない)
 折ったシャツの袖から覗く太い腕が男らしい。
 生ビールを飲んですっかり出来上がった駄目な大人たちは口々に「大人の色気が増した」「胸が育ってる」「あんな身体の歴史教師いる?」と好き勝手言いだす。
 先輩はセクハラ発言にも大真面目に「鍛えているからな!」と返して、輝く笑顔で二の腕の力こぶを披露した。
 私はすっかり忘れていたはずの恋心が再び揺さぶられるのを感じて、先輩から顔をそらしてビールを飲み続けた。
 たった一目見ただけなのに。引き続き真正面から見るのが恥ずかしいくらい、胸が高鳴っていたから。
(見ちゃだめ、絶対にだめ)
 見たら、今度こそ忘れられなくなってしまう。
 お開きになったらまた疎遠になる人に片思い続行なんて、正直キツイ。
 私もいい年なのだから、いつまでも学生時代の恋を引きずってなんていられない。わかっている。わかっているはずなのに。
 意識はずっと彼に向いていた。
 先輩の隣には今、学生時代からかわいいと人気だった女の子が座っている。
「先輩、彼女できました?」
「できていないな!」
「じゃあ好きな人は?」
 彼女の問いに、この場に集う女子の意識が一斉に先輩に向いた。
 私も、思わず先輩を見てしまった。
 するとどういうわけか、ばちり、目が合う。
「いる。学生時代から、ずっと想っている人が」
 黄色い悲鳴と質問攻めが続く中、私はふと、学生時代に噂されていた先輩と既婚者の女性の話を思い出した。
 きっと先輩はまだ片思いをしているんだ。
 一途というか、真面目というか、先輩のような人でも恋が実らないなんて、世の中本当にままならない。
 先輩に想われている人は、気づいているのだろうか。その幸せに。


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