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「で、君は仕事をサボって未成年に手を出して帰って来たわけだが…何か言い残すことはあるかな?主に灰原に対しての弁明とかね」
「先輩、流石に未成年は駄目ですよ…」

形だけの笑顔でこちらを見下ろす夏油くんと、悲しげな顔で私から視線をそっと反らした灰原くんの前に正座させられた私は、研究所内の応接室にて声を張り上げて「誤解だ!!!」と叫んだ。

「違うから!!ただ一緒に土質の調査とかオブシディアン探ししてただけ!!!ちゃんとお金も払ったよ!!?」
「未成年を一日連れ回した挙げ句に金を払ったのかい?立派な事案じゃないか」
「先輩、一緒に自首しに行きましょう…!僕は絶対先輩のこと見捨てませんから!」

だからぁ!!!違うんだってばぁあ!!!!

腰を落として私の肩をぽん、と叩いた灰原くんにむぎゅっとしがみついて、私はやだやだと駄々っ子のように首を振った。

なんで君まで私を責めるんだ馬鹿ーッ!!君は妻として夫…夫?である私の無罪を主張すべき立場だろう!
やっぱりあれか?あれなのか!?学生時代に憧れた先輩の思想には従っちゃうものなのか!?くっ…!これだから夏油傑は…この卑しか男め!


…春、桜咲く年度のはじめに私は一人の少年と出会った。
彼の名を吉野順平という。
彼は私が調査を行っていた河川敷がある地域の高校に通っており、その日は早退して来た所だったらしい。
いや、正確に言うと"その日も"かもしれない。

満足いく学校生活を送れていない彼は、私という非現実的な超絶スーパーウルトラギガント天才美少女に惹かれ、私の提案した「アルバイト」に協力する姿勢を示した。

一応名刺も渡したし、ちゃーんと親御さんにも挨拶した。
一緒に行った調査はとても順調だったし、彼はテキパキと私の指示に従って大変良く働いてくれた。何より、とても楽しそうに見えた。
砂や泥に塗れ、硬い岩をタガネと金槌を使って削り、削り出した岩石をさらにタガネを使って慎重に削り、出来た標本にその場でラベルを作って袋に分ける作業をする彼は、昨日会った時よりもずっとずっとイキイキとしていた。

採取出来たのは大して珍しくもないレキ岩や花崗岩ばかりだったが、それでも必要以上に採取した。
そして「明日はクリーニング作業をしよう」と約束して一度こうして研究所へと帰って来たのだ。

そしたらこの有り様ある。
全く、何処の世界に貴重な調査作業後の所長を正座させて説教する経営担当が居るだろうか。
酷いもんだ、ぷんすこ。可愛く怒ってもどうせ夏油くんは許しちゃくれない。

「でも甚輝先輩、確か他に仕事ありましたよね?」
「ぎ、ぎくぅッ!」
「そうだよ、スポンサーの悟からも言われているだろう。今年こそはちゃんと仕事しなさいって」
「ぐぬぬぅ〜!」

ず、ズルいぞ君たち!そこで我が唯一の友人の名を出すのはズルすぎる!

た、確かにまあ…仕事はあるよ、あったよ。
何だったか…えーっと、「今年は宿儺の器や気になる呪霊の動きもあるから、ちゃんと仕事するように」とか何とか言ってたっけ?
確かに宿儺の器…虎杖くんのことは色々調査や観察が必要なことは同意だ。
他にも、大きな呪力を持った呪霊の痕跡も幾つか見つかっているし、呪詛師界隈もややザワつきを見せていると兄も話していた。
だから私も成すべき事を成すべき時に成せ、とお達しが出ている。学長から。

しかーし!そんな程度の縛りや脅しに屈する天才では無いのだ!
天才とはいつも突拍子が無く極端なものなのだ、許せ……。

「いや、許さない。ちゃんと新しい研究を完成させてくれ」
「むりーーー!!!適合する生命体が見当たらないの!!」
「だったらあの猿を使えば良いじゃないか、呪力が無いから何にでも適合するんだろう?」
「おい、お前次お兄ちゃんを猿呼ばわりしたらスイッチ一つで永久冬眠させてやるからな……」

そして五条くんを悲しませてやるから、覚えとけよマジで。

などとイキれるのは灰原くんにしがみつき彼を盾にしているからである。だってこの男怖いんだもん。デカいし何考えてるかわかんないし、あと私より研究所のこと色々やってるし。

しかしだな、お兄ちゃんを素体として研究を進めるのはありっちゃありなのだ。むしろ、それが一番手っ取り早い。

今行っている研究は、人間をより強化して呪いに耐性を付け、さらには呪いを生み出し辛くするための研究だ。
例によって私の産出した鉱物をコアとし、それを基盤に対象が出す呪力と対象に当たる呪力の調節を可能とし、呪いを"減らす"実験を行っている。
より詳細に語るとするならば、分子レベルで呪力を正の力へと分解するのだ。
つまりは、私の鉱物による強制的反転術式とも呼べる。
これが完成し、さらには量産出来れば世界はかなり変わるだろう。
非術師の産み出す呪いを許すことが難しい夏油くんは、この実験にかなり協力的だ。だからこそ、研究を完成させる手立てがあるのにせず、プラプラと調査という名目を使いほっつき歩いている私を許せないわけである。

けれど、そうは言われても私はお兄ちゃんを実験になんぞ使いたくない。絶対に。
他の人間ならばまだしも、お兄ちゃんだけは駄目だ。だってお兄ちゃんは今の状態が最高で最愛だから。
ありのままが一番なの、だから絶対魔改造とかしたら駄目なの、アーユーオーケー?

灰原くんにムギュムギュとしがみつきながら私はグチグチと言い訳を述べた。
そうすれば夏油くんはとっても大きな溜め息をついたのだった。

「今回の研究はかなり色々な所から出資して貰ってるんだ。くれぐれも、期待されていることだけは忘れないでくれ」
「分かってるよ、私だって諦めるつもりは無い」
「それなら良いけど」

ふっと息を溢した夏油くんを見て私は胸を撫で下ろした。
これでお説教も終わりかと思われホッとしたのも束の間、彼は「けれど」と話を続けた。

「未成年を…しかも一般人を勝手に働かせるのはどうなんだろうね、私はもう知らないよ」
「そうですよ先輩。どうせ先輩好みの可愛い顔した子なんでしょうけど、駄目ですよ一般人を巻き込むのは」

ウッッッ!!!正論殺法で心を滅多刺しにするのはやめてくれ!!
あと何で私の好みのタイプの子だと分かったんだ!?いつの間にそんなに浮気に敏感な子になったんだ灰原くん…いや、決して浮気じゃないけど。私は妻だけでお腹いっぱいだから。いつだって君が一番可愛いよ。

だがまあ、皆に迷惑を掛けるつもりは端から無い。
吉野順平については、私個人が調査員として雇っているのだ。この研究所に所属させているわけではない。

それに、一般人だとか何だとか私は正直あまり気にしていない。
使えるものは何だって使う、お兄ちゃん以外。
だからうだつの上がらない男子高校生も働かせる。本人にやる気があるのだから良いだろ、別に。

もしも、仮に吉野順平が私のせいで何かに巻き込まれた場合はちゃんと責任を取るさ。
未来ある若者の貴重性は、私だって十分に理解しているとも。

私は大切な奴以外大切じゃないが、大切にすると決めた相手はとことん大切にするのだ。
一度関わってしまったのだから簡単に見放したりはしない、しっかり面倒見るよ。


ちゃんと面倒見ます宣言をすれば、灰原くんは「先輩がそう言うなら僕はOKです!」と言ってくれた。流石妻、私への理解と許容がありますね。

「くれぐれも問題は起こさないでくれよ?」
「分かってる分かってる、任せとけって」
「不安だ……」

ハッハッハッ!!
大丈夫大丈夫、もし何かあったとしても諸共に破滅するだけだから、私と夏油くんが。

よし、めんどっちい許可も改めて取れたし、明日も楽しくやろうではないか。
やはり人生何事も楽しまなきゃだからね、そして一緒に楽しんでくれる人間のことは大事にしたい。
他の皆と同じようにね。


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