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いや本当に許して欲しい、まさかそんなことになってるとは思わなかったというか、いや、元を返せば私の理解力の無さが招いた結果なんだけども。


狗巻くん以外のメンバーに呼ばれて行った先で、私は衝撃の事実を聞かされた。


「だから、棘の奴はお前に告ってOK貰ったっつってんだよ」
「…ほあ………?」
「んで、付き合ってると思ってる」
「…ほ、ほあーーー!?」


どゆこと…な、なんで?狗巻くんなんで?
どうしよう…さっぱり分からないぞ、身に覚えがありすぎてどの会話か分からない。
狗巻くんとの会話では、分からない時程「分かったよ」って言っちゃうので、多分その「分かった(わからん)」のどれかなのは確かだと思う。
思う、が………これは、どうしたものか。

真希ちゃんはまあ、私がこんなアンポンタンの思慮が浅い人間(自分で言ってて悲しい)なのを知っているから「仕方ねえな」で許してくれ…くれ、る……はず…!
パンダはパンダだから除外、だって人間のこと気持ち悪いとか言うし、ちょっと分かるけど。

問題は………乙骨くん、この人だ。

彼は隈の酷い瞳をこれでもかと淀ませ、黒々としたオーラを背負いながら、真希ちゃんが説明してくれている最中ずっと視線で訴えてきていた。

「振るなよ」「まさか狗巻くんを捨てないよね?」「断るな」「僕の大切な友人に何をしてるんだ」「ゆるさない」

察しのあまり良くない私でさえ、ここまで分かった。
怖すぎる、特級ガチヤバ人間怖すぎるよ。
これだから特級と名の付く奴等はどいつもこいつも……。

だが乙骨くんの言い分はよく分かる。
私は恋とかしたことは無いので乙骨くんや狗巻くんの気持ちを理解することは出来ないが、好きな人と同じ思いになれないことは悲しいことなのだとは本とかで読んだから分かる。
私も、尊敬する担任である五条先生に「将来は冥さんみたいな女性になりたくて……」って相談したら爆笑された後に「え、やだ無理、一生そのまんまで居てよ、面白いから」って言われて悲しくなっちゃったもんね。

意見の食い違いは仕方無いけれど、感情が届かないことは寂しいことだよね。
………そうか、私は狗巻くんに寂しい思いをさせていたのかもしれない。

「私、どうしたらいいのかな…」
「うん、お幸せに」
「気が早いよ乙骨くん」

気が早いし何の解決案でも無いよそれは。
真希ちゃんが、私が狗巻くんのことをどう思っているかを質問してきた。

どう、と言われましても……どうなんでしょうかね。
沸き上がるのは疑問と疑心ばかりだ。
何故私に告白したのか、そもそも狗巻くん私のこと好きだったの?なんで友人じゃ駄目なのか。

ハッキリ言って、自分で自分のことを愉快な人間だと思ったことなど記憶がある限り一度も無い。
特筆すべき点だって、強いて言えばあまり環境に左右されない人間性を持っていることくらいだ。
愉快だというのなら、彼の方が余程愉快だろう。
私は自分の信じた道を貫き通せるような、自分が選んだ正しい生き方をしている確固たる意思のある人間でも無いし、見た目だって私より優れた者など世の中には沢山居るだろう。

平坦な感情しか、沸いてこない。

ああいや、でもそうだな、狗巻くんに対しての感情はイマイチ察しの付かない問題だが、感想は言える。

彼は楽しい人だ、言葉は理解出来なくても一緒に写真を撮ったり、オススメしてくれた動画や音楽を見たり聴いたり、ゲームだって夜通ししたことあるし、任務の帰りにご飯に行った時には一口味見させてくれる。
私がお腹が痛くて気分を沈めていれば真っ先に過剰なほど心配してくれたし、シャンプーを変えた時だって一番最初に気付いてくれた。
猫が好きだと言ったら、猫の写真を撮って来てくれる。
世の中への理解を深めるために地方公演の小さなオペラの舞台を観に行く時には、興味なんて無いだろうに一緒に来てくれた。

語る言葉は尽きない。
つまるところ、彼はそういう奴で、私は彼に対して酷く感謝をしていることは確かなのだ。


「…狗巻くんとちゃんと話したいな」


口に出した結論は単純なものだった。

でも仕方無いだろう、これ以外に私が自分から出来ることなどないのだから。

彼が任務から帰ってきたら、取っ捕まえてお話しよう。
急に私の理解力がグングン向上して、会話が成り立つようになるとは思わないが、それでも肯定と否定は分かるのだ。それさえ掴めていれば何とかなるだろう。

こうして私は一人、燃えるようなわけでも、激しいわけでも無い、実に単調でとりとめも無い恋に踏み込むことになるのだった。


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