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めっちゃ小難しい問答をしたが、結局のところ私の現状は、「おめぇの帰る場所ねぇからぁ!!!」ってことでファイナルアンサーである。めちゃつら。泣いてしまうこんなの。

あまりにも大きな問題を背負い過ぎた私は、もう何もかもを投げ出したい衝動に駆られていた。
やってられるかアホーーー!!!って海に向かって叫びたい。でも、陀艮ちゃんの海でそんなことしたら多方面感から批評を買いそうなので、やめておきます。

私は日々、無駄に頭を悩ましながら生きていた。
そんな矢先のことである。

なんと、私に黙って呪霊サークルの皆が高専を襲撃したらしい。
ズタボロになって所定の位置まで戻って来た花御さんを見た私の気持ちと言えば、「わあー!!!このサークルから今すぐ抜けたい!!今すぐだ!!!」という焦りと恐怖であった。

「は、はな、はなみ、花御さん…!身体…!!」
「■■■◆◆■、■■◆■◆■」
「あ、はい…大丈夫なんですね、はい…」
「■■、■■◆」

頭がバグる喋り方をされながら、私はとにかく重要そうな言葉だけ拾い上げて解釈する。
なるほど、とりあえず命に問題は無いらしい。良かった…いや、良かったのか?私、完璧に悪役側の仲間の一人になってません?これ大丈夫?死亡フラグ立ってます??

一緒に居た真人さんと、あと知らない男の子がニヤニヤしながら見てきていたが、敢えて無視することにした。貴方達は元気そうね、良かったね。

それより、今は花御さんである。
最近知ったのだが、花御さんは分類としては精霊に近く、森の木々や花々を愛する性質を持っているらしい。
つまりはお花の妖精さんってわけだ、多分。
森林は大事だよね、森林の研究や調査もしていた記憶が微かにあるから重要性が分かるよ。

森の守護者はね、居た方が良いと思います。
人間は歯止めが効かない生き物だから、何かが止めないと止まらない。
花御さんはきっと、地球に必要な存在だと思う。
なので、ここで死なれちゃ困るのだ。
いやまあ、死なないだろうけど。でも、痛々しいことに変わりは無い。

「花御なら大丈夫だよ、真知。それよりさっさと帰った方が良いんじゃない?勝手に出歩いてると夏油が心配するよ」
「心配はさせとけば良いと思うけど…花御さん、歩ける?」
「■■◆■◆」

恐らく、「大丈夫です」と言った。この人はさっきからこれしか言わない。
私のことを信頼も信用もしていないからだろう。
けれど、そんなことはどうだって良い。

前にも話したが、私は私が相手からどう思われているかに然程興味が無い。
私が相手を想えればそれで良い。だから、花御さんが私を信用していなくても別に構わない。

私は私の好きにする、貴方達がそうしているように。

「インテリジェント・デザイン…カルメス・ドロメダリウス」

指先を擦って打ち鳴らし、式神を呼び寄せる。
現れた無数の骨達は規則正しく決められた通りに一気に組み上げられ、そこには大きく頑丈な骨格標本が出来上がる。

カルメス・ドロメダリウス。
ラクダの学術名である。
身長は凡そ百八十センチメートル程で、この子は重たい荷物も難なく担ぎ、尚且つ乗り手に負荷を与えない歩みを提供してくれる。

私は出現させた式神を一撫でしてから、真人さんに肩を貸され何とか歩こうとしている花御さんを見た。

「花御、真知が乗れってさ」
「………………」
「良いじゃん、俺も楽出来るし」

式神を花御さんの側へと寄せる。
花御さんはじぃ…っと骨の顔を見つめてから、一度私を見て真人さんの手を借りながらラクダに跨った。

「よし、じゃ…帰ろっか」

真人さんの一声で私達は歩みを再開した。

私は帰り道、ひたすらに何を目的とし、誰を想って生きれば良いかを考えていた。

けれど、不思議と何も浮かばなかった。
ここに来てからずっとそうだ。あらゆる自由を得たからだろうか、私は酷く冷たい人間になりつつある。




___





悲報なのか朗報なのか分からないが、速報。
サークルメンバーが増えた。一気に三人も。

「呪胎九相図の三人だ。仲良くするんだよ、真知」
「あ、あの!あの、その…!!」
「ん?どうして目を瞑っているのかな?何か…怖いかい?」
「い、いやあの、その…ですね…!」

そしてまたもや悲報なのか朗報なのか分からないのだが、新規メンバーの一人が……す、凄くその…ギリギリアウトなのだ!格好が!!

ムキムキマッチョな美しい褐色の肉体に、何処で売っているんですか?と聞きたくなるような黒のピチピチした服?服なのか…?そういった物を身に纏っている。もしかしなくても、下半身のそれはTバックと呼ばれる物ではなかろうか。
ヤバい、マズい。どうしよう。
真知ちゃんは未成年のピュアピュアイノセントな女の子、十八禁ドスケベお兄さんとの触れ合いは出来ないんですけどねぇ!?

私は目瞑って偽傑さんの後ろにサッと隠れる。
えっちなのは十八歳になってから。私は十八禁サイトで『いいえ』をちゃんと選ぶタイプの中学生です。

偽傑さんに隠れてハワハワとしていれば、彼は何を勘違いしたのか「全く仕方無いんだから。ほら、おいで…よしよし、今日も真知は可愛いね」と、私を抱き締めて撫で出した。
違う!!違います!!!
いや、偽傑さんロリコン化計画としては正しいかもなんだけど、別に私は今貴方とイチャイチャしたいわけではないのだ!!

「甘えたくなってしまったのかな?良いよ、好きなだけ甘えなさい」
「ち、ちが…!あの、ほら……あちらの…」
「壊相がどうかしたかい?あ…食べたい、とか?」
「そうじゃなくて、ちょっと…中学生には刺激が強過ぎてですね……」

しどろもどろになりながら伝えると、偽傑さんは私を撫でていた手を一旦止め、三兄弟の方を振り返った。
それから数秒後、私を見てニコリと微笑むと、ぐっと背中を押して私を彼等の前へとやった。

前から思っていたのですが、今ので確定しました。
この人めっちゃ性格悪いですね、最悪な大人ですね。普通、可愛いとか言って撫でくりまわしていた相手を「見れない」って言ってる相手の前に追い遣ります?
ふざけてるでしょ、コイツ。覚えてろよ。

私が気不味さで何処を見たら良いか分からず、視線をキョロキョロさせて最終的に自分の爪先を見始めた時だった。
壊相と呼ばれたエッチインパクト大!な九相呪胎?の一人が、すっと腰を折り私に話し掛けてきた。

「失礼、姫君。どうか私には気を使わず」
「あ……ども…えっと、はじめまして…」
「ええ、初めまして。どうぞこれからよろしくお願いします、姫」
「ひ、ひめ……」

チラッ。
偽傑さんの方を見る。彼は、とても良い笑顔で頷いていた。
何なんだよその後方彼氏面みたいな態度は、癪にしか触らん。やめてくれ。

「あの、もっと普通で良いですよ…私、ただの弱っちい中学生なので……」
「いえ、どうか姫と呼ばせて下さい。貴方は我々にとても近く、そしてさらに崇高なのだから」
「ひぇ〜〜〜〜〜」
「それに何より美しく可憐だ、どうかその瞳で私を見ては頂けませんか?姫君」

あえ〜〜〜〜〜〜!!!!
許してくれ、許してくれ〜〜〜!!!
未だかつて感じたことの無い恥ずかしさで背中や頭が痒くなってきた。
助けて誰か、本当に頼む。私のことなどもっと雑に扱ってくれ…!!

今の状況を客観的に見ることで落ち着こうと、私は頭を働かせた。
しかし、客観視することにより浮き彫りになった特殊プレイとしか言えない状況に、さらに羞恥心が高まっていく。
何が悲しくてTバックを履いたムキムキマッチョな男に「姫」って呼ばれながら、褒め讃えられなきゃならないんだ?私、何か罪とか犯した?

薄目を開き正面を見れば、綺麗なムチッとした谷間が見えてしまいもう駄目だった。
私は泣きそうな心地で偽傑さんの後ろへとバビュンッ!と戻り、彼の服を掴みながら深呼吸を繰り返す。

「こら、真知 失礼だろう?仲良くしなさい、そして姫らしくしなさい」
「今まで一度もそんな風にしろって言わなかったですよね?」
「それとも、そんなに私が良いのかい?可愛いね、こっちへ来なさい」
「話、聞いてます???」

彼はそう言って、また「仕方無い」と笑いながら私の頭を撫でてきた。
完璧に玩具にされている。良いようにされている。

ぐぬぬ…と耐え難きに耐えながら、私はもう一度兄弟達の方をチラリと見た。
何とも仲良さそうに肩を寄せ合う彼等は、つい数時間程前に姿形を得たばかりである。
今までずっと培養液の中に居た彼等は、互いに触れ合い声を聞くことが何よりも嬉しいらしい。
それはもう、心からの笑みを浮かべて互いに互いを見つめていた。

そんな光景を見て、羨ましくなる。
私もああして、触れ合い側に居るだけで幸福になれる相手が確かに居たのに。今はもう、影も形もない。
この世の何処にも無くて、それがただただ寂しい。
胸の奥がスースーして、身体が冷たくなったような気さえしてくる。
それでも、冷えた身体を温めてくれる温度は無い。あの、陽だまりと愛情で満ちた昼下がりは、もう私の元には存在しない。

「真知」

思考と精神が冷たくなっていき、瞳に陰りが出始めた頃、彼は私の名を呼んだ。
上を向けば、馴染みのある顔立ちが微笑んでいる。

「あまり、辛いことばかり考えてはいけないよ」
「大丈夫…ただのホームシックだから」

そう、こんなのただのホームシック。
私は賢くて自立出来る人間なのだ、甚爾さんが居なくたって頑張れる。頑張って……頑張って、一人でも生きていける。

私はもう一度「大丈夫」と言った。
そんな私を見て、偽傑さんは可笑しそうに声を溢す。

「…笑わないで下さい」
「いや、すまない…可愛いなと思ってね」
「趣味が悪すぎる」
「君に言われたくはないな」

「でも本当に可愛いよ」と言う声と共に、頭上から明かりが消えた。
あっ、と思う間に降ってきた唇が私の鼻に当たり、そのままスルリと降りて唇を掠めていく。


ここで今日の復習。
偽傑さんは性格が悪い。性格の悪いロリコン。
あと、姫呼びはキツい。

早くおうちにかえりたい。
良い子にするから、誰か願いを叶えて。ヘルプ・ミー。

mae ato
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