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オタサーの姫ならぬジュレサーの姫になった元中学生にして前世中年研究者は、現在進行形で苦しい日々を送っていた。

話し合いという名の一方的情報搾取によって判明したことと言えば、今が西暦二〇十八年であり、伏黒甚爾という男が十年以上前に死んでいたという情報…以上の二点のみが、私が偽傑さんから得られた情報だった。

たったの二つだが、しかし様々な憶測や仮定は立てられる。
"ダゴンの領域"と言われたあの海と私が生み出してしまった海が通じていたとして、その海から流れ流されやって来たこの世界…もしかしたら私が居た世界線とは違う、似た世界なのかもしれない。
私が居た世界では、甚爾さんは私と共に生きていた。時には拗ねたり、離れようとしたり、試すような真似を多々してきたが、彼は確かに私と生きてくれていた。
しかし、この世界ではそれが無かった。
そして「禪院真知を知らない」という記憶を持つ、傑さんの肉体。

この事実から推測するに、ここは「禪院真知がはじめから存在しなかった世界」なのではないかということ。

どうやらその結論に達したのは私だけでなく、私を捕らえた偽傑さんも同じようで、彼は随分と楽しそうに色々と聞き調べてきた。

その質問劇の中で分かったことがもう一つある。
それは…この偽傑さんが、とんでもなく頭が良くて何枚も上手なことだ。
参ったことに、賢いと自負のある私ですら立ち打ち出来ない程の切れ者なのだ。恐らく、研究者気質もあるのだろう…こちらに興味関心を強く持っているのが良く分かった。
私はその気持ちを利用して何とか自分に都合が良く、尚且つ現状打開出来る方法を得ようとしたが、尽く失敗に終わった。

それでも、彼は表面上友好的かつ面倒見が良かった。
衣食住を与えられ、何かあった時のためと監視兼護衛役の呪霊も与えてくれた。ついでに、暇だろうからと娯楽なども。

突然現れた謎の人間に対して、かなりの高待遇ではある。
しかし、それは単に私に使い道があるからなのだろう。
信用も信頼も出来ない日々は、結構しんどいものである。

だが、何よりも辛いのは…そう、他のサークルメンバーの方々からの扱いであった。
彼等は新入りメンバーである私を警戒し、一部を除きあまり仲良くはしてくれない。
とくに一つ目火山頭のやつ。アイツは一度私を殺そうとしてくれた。何も相手方の事情を知らない身で言うのも何だが、自分で自分の機嫌くらい取れるようになっておかないと人間関係苦しむことになるぞ。まあ、アイツ人間じゃないけど。

そんなわけで、私は命がギリギリのラインで何とか保たれている生活を続けている。
出来れば早いとこ元の世界…禪院真知が居るべき世界に戻りたいが、方法が見当たらないため当面はこの生活が続くのだろう。
ああ…めっちゃしんどい…。


「……焼かれた所が治ってる」

服を脱ぎ、肩の傷を確かめる。
一昨日火山頭の奴に焼かれた皮膚と肉は、見事に再生されて綺麗に戻っていた。
別段驚きはしない。だって、私の身体…ホヤだし。
ホヤは細切れにされても再生し、別個体を生み出すことの出来る凄い生き物なのだ。私はホヤオタクなので語ると長いので割愛するが、脊椎動物には無い脅威の再生力を誇るホヤから進化したこの肉体…多少傷付いた程度じゃ死なないようである。

「本当だ、綺麗に治っているね。良かったよ」
「ギャワッッ!」

傷口を観察しながらホヤと自分の関係性について頭を悩ませていれば、突然すぐ側から声がして謎の奇声を挙げてしまった。
振り向こうとするも、それより先に顎を掴まれ上を向かせられる。
見上げればそこには、偽傑さんが笑みを浮かべて私を見下ろしていた。

「君の綺麗な身体が治らなかったら、私も悲しいからね」
「着せ替えが捗らないからですか…?」
「まあ、それもあるよ」
「他には…」
「お姫様には綺麗で居て貰わないと困るだろう?」

だからその姫扱いなんなんすか、マジで。意味わかんないし寒いしイタいんでやめてくれませんかね…とは言えないので、私は顎を掴む手に自分の手を添えてとりあえず笑ってみせた。

スマイルスマイル。笑顔は基本。どんな外交でも笑顔が一番重要だからね。

「君にはね、色々試したいことがあるんだ」
「奇遇ですね、私も私に出来ることを模索中なんです」

我々はどちらも似たような笑みを浮かべる。
つまりは、表面上友好的な笑みというやつである。

顎から離れた手が首を撫で、肩を触り耳を柔らかく揉んだ。
彼は随分と楽しそうにしながら、「君は賢くて良い」と私のことを褒めてくる。
ありがとう、私も自分の頭の回転の良さは評価しています。

「自分の体質はもう理解しているかい?」
「ええ、まあ」
「なら、私がしたいことも分かるかな?」
「凡そは」

言わんとしていることの大体は把握出来る。何なら、私もそれは試したかったことの一つでもあるからだ。

ホヤから進化を遂げた私の身体は、再生能力が桁違いとなった。
これの意味するところは、ホヤの特性が備わっているということである。
私がどうやって今の状態になったかは覚えているだろうか?そう、死体を養分として、その死体からあらゆる物を吸収してこのようになったのだ。
脳を溶かし吸い込んで記憶情報を繋ぎ、血を飲み込んでDNA情報を搾取する。肉体は余すことなくリサイクルし、骨も残らず私はこうしてホヤホヤ真知ちゃんとなった。
ぶっちゃけ、なんで研究者だった頃の記憶や肉体が残らなかったのかは疑問が残るが…それも呪い的作用の一つとするのなら、分かる気がする。

偽傑さんのやりたい事は、私が養分として"何か"を吸収しさらなる進化を遂げられるかどうかだろう。
私としても、進化生物学研究者として非常に気になる所である。
脊椎動物の限界は何処なのか、人間は一個体で完結した完全なる存在に成りうるのか。

もしも神が人間をデザインしたのならば、私はそのデザインを超えられるのか。

知りたい。確かめたい。
あらゆる可能性を探りたい。

きっと、私と彼はそういった部分が近しいのだろう。
だが、見据える先は違うはずだ。
彼には彼の計画が、私には私の計画があり、それはきっとどちらかしか叶わぬであろう。

それでも差し出された手を掴み、握手を交わしたのは単純な理由だ。


私はこの世界で、他に居場所が無いからだ。


禪院家に真知という名の娘は存在しない。
高専に真知という名の便利な術師は在籍していない。
伏黒恵は禪院真知に助けられていない。
五条悟は禪院真知を知らない。

そして、伏黒甚爾はもうこの世界には存在していない。

私の居場所は無い、何処にも。
ならば、今ある状況下で何とかしなければならない。
だからこの男の手を取った。
この、私を呪いでも人間でも無い存在へと変貌させたがっている恐ろしい生き物の手を。

『上等じゃないの』と、私は思ってやる。
自慢じゃないが、私は賢く柔軟だ。しかももう、しがらみも何も無い。捨てる物が無い人間は無敵なのだ。

それに、この凶悪で強大な男より優れている点が私にだってある。
それは………私が過去に様々なロリコンを生み出してきた、連戦練磨のロリコンメーカーだという事実だ。

いや、ここ笑うとこじゃ無いですからね?
私はガチで言ってるんですからね?
良いですか?多様性を大切にするこの時代においても、ロリコンと処女厨は迫害の対象なんですよ。積極的に抹消されるべき概念なんです。
そんな罪深き生き物にこの男がなったのならば、その時はもうこんな街中にはどうどうと居られないわけですよ。ロリコンに文句を言わないのなんて、森の木々くらいですからね。いきなり田舎の古民家買ってDIYに励む若者にでもなるしか無くなるって寸法よ。

というわけで、世紀のロリコンメーカーはここで頑張ろうと思います。
皆様温かいご支援、応援の程、何卒よろしくお願い致します。


ところで、最近何だか前より思考が狭い気がする。
ただの疲れかな?それとも、知らないうちに頭弄られたりしてる?

てか、なんで私…こんなにここに柔軟しているのだろうか。
ホヤだからかな、ヤバいな…色々と…。

mae ato
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