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ここまでのあらすじ!
私の名前は禪院真知、中学三年生!
ある日、仲良しの恵くんと高専に向かう途中、ちょっと歩き疲れたので恵くんが飲み物を買いに行っている間、道の端で一人で休んでいたら…なんと、運悪く突っ込んできたトラックに潰されてジ・エンドしてしまった!!

つまり!私の異世界転生物語はここまでってワケ!!!
終わり!!!次回作にご期待下さい!!!


「…………ってなわけあるか!!どんな打ち切り漫画だよ!!」

一人でボケて、一人でツッコむ。
なんて寂しい人間になってしまったのでしょうか、私は…。


薄暗い証明の下、私は何処にでもあるチェスター付きの椅子に座りながら、自分の身体を自分でチェックしていた。
先程撮った心電図も脳波も異常無し、骨も内臓も綺麗なもので、変わった所と言えば環境くらいだ。

そう、環境。
私が現在居るのは、荒れ果てた研究施設であった。
一体何処から引っ張ってきているのかは疑問だが、電気も付くし水も出る。オマケに、窓の外は実に良い眺めだ。

一面に広がる海原は青く澄んでいて、穏やかな潮風が優しく波を立てている。
空は遠く、太陽の陽射しは変わりなく。私はそんな場所で、一人目覚めて全てを知った。


ここは、元の私が居た研究施設だった。


西暦は不明。
上昇した海面により、私が居た頃とは外の景色が一変している。
研究施設の設備は埃まみれ。一階と二階は既に海に沈んでおり、私が居るのは四階の実験フロアだった。
懐かしいオフィスで目覚めた私は、鏡に映る自分の姿を見てビックリした。
何故ならば、どう見ても「異世界転生した私」の姿形だったからだ。

一体全体どうなっているのか…疑問に思った私は、研究者としてすべき事をした。
何か資料が無いか探し、自分の身体について調べ、データにまとめて答えを探る。

そうして得られた結果をまとめると、つまるところ…私はホヤだった。

意味が分からないとは思う。私も同じ気持ちだ。
けれどこれは事実で、正しい結果だった。

私は自分が研究材料にしていた、進化の可能性を秘めた賢いホヤで、そして…死んだ人間だった。

残されていた日誌によると、あの日…私が豆腐の頭に角をぶつけて死んだ日のことだ。私の死体隠蔽のために、私の育てていたホヤが使われたらしい。
研究員達は私の死んですぐの身体にホヤの幼生を寄生させ、養分として消費することにしたそうだ。
結果は…今の私を見て分かる通り、成功なのか失敗なのかよく分からない。
ただ、一つ確かなのは…このホヤはホヤではなく、呪いだったということ。

私が深海で見つけた新種のホヤ。
どうやらコレはホヤの見た目をした呪いで、何かの拍子にこの世界にやって来てしまったらしい。
そして私に捕まり、研究材料になっていた。

……で、世界はこうなった。

窓を開き、海に支配された世界を見渡す。


深海は最早"彼等"の楽園であった。
私が育てた"彼"から分かたれた"彼等"は、この星の水位をあっという間に増やし、人間から陸地と文明を奪い取ってしまった。

賢い動物の一部は海へと逃げ、そうでない物は今も沈まぬ山々の一部へと姿を消した。
人間がどうなったのかは知らない。宇宙を目指したかもしれないし、今もこの海の何処かにひっそりと居るのかもしれない。

言うなれば、私は人類の敵を生み出した張本人だった。
しかし、"彼"が居なければ私は再び目を覚ますことはなかった。

何が良いか、正解か…そんなことは分からない。
ただ、私が焦れ目標とした帰る場所など、この世界には既に無かったことだけは確かだった。


異世界転生をしていた。
ここではない、本当の呪いが溢れた世界に。

懐かしいと思う。帰りたいと思う。
まるで、私があの世界で生きていた頃にこの世界へ思ったように。

けれど、もうどうにもならない。
だってここも時期に海に沈むだろうから。
私の見立てによると、もうじき酷い雨になるらしい。その雨は何日も何日も続き、またこの星の水位を上げるだろう。

嵐が来たら終わりだ、この研究施設も海へと攫われ彼等の楽園に沈み堕ちる。


「神様の計画、台無しにしちゃったなぁ…」


支配する側がされる側へ。
神の計画はお先真っ暗、後戻りも出来ず。

ああ、でもそうか。
神が我々人類を美しくデザインし知性を与えたように、私もまた"彼等"に知性を与えデザインを施してしまった。
ならば私は彼等からすれば創造主で、創造主たる私の計画によって今日も世界は円滑に運営されているということなのかもしれない。

なんだ、そんなことだったのか。
私の姿が"こう"なのも、人間が神を模して創られたのと同じこと。

インテリジェント・デザイン。
即ち、神の計画。

今日もこの世界は神たる私の計画に従って、新たなる支配者達により滞りなく回っている。

古き支配者に終わりを与え、新しい世界の幕開けを待っている。




___





遺体の損傷は酷いもので目も当てられない状態だったと、検死を担当した家入はやって来た五条へと伝えた。

胸も頭も潰れ、唯一形が残っているのは左手首から先くらい。大型トラックの下敷きになって潰れた小さく頼りない身体は、全国ニュースにも取り上げられてしまうほどに日本中に事故は拡散された。

ある者は事故現場の写真をネットに上げ、ある者は動画をテレビ会社に売り、ある者は名前も知らない少女の死を悲劇だと売り物にする。
そのどれもが許せないと五条は腹が立って仕方なかったが、何よりも許せないのは自分自身だった。

悔やんでも悔やみきれない。
彼女が…禪院真知という少女が、呪術師と呼ぶにはあまりにもやわで脆い体の作りをしていることなど、今更過ぎるほど知っていたのに。
それなのに、安全が保証されない環境に置いてしまった。

迎えに行ってやれば良かった。
自分が居れば絶対に大丈夫だったはずなのに。
こんな終わり方はあんまりだ。


「僕のせいだ」


肉塊と化した身体は既に遺体袋へと詰込まれ、安置所で火葬の日を待つのみとなっていた。
事故からはもう既に二日が経過し、誰も彼もが少女の死を知って嘆いている。

明日の朝一番に、禪院家から高専へと代表者数名が来る予定だ。
火葬は身内だけで立ち会い、その後の葬儀も多くの者を招くことなく行われる段取りとなっている。

その葬儀の場に、少女が最も側に居ることを許した男は居ない。
何故ならば、昨日から連絡が付かず行方不明となっているからだ。
そして、今日になって五条の親友である男も急な休みを取ってしまった。

五条は一人、遺体袋に触れながら後悔だけをし続ける。

「本当に、本当にごめんね…真知ちゃん…」


何処かの世界で少女が青に攫われる瞬間、この世界では業火によって弔われていた。

神の計画は今日も滞り無く円滑に進む。
海と炎の向こうで、少女は新たな世界へその身と魂を投げ出し呪われた。

mae ato
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