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七海くんと灰原くんの休日に、一緒にご飯を食べてお買い物をしてアトリエへと帰って来た。
二人に選んで貰った服や帽子、それから本とお土産のお菓子をウキウキとした気分でマンションの部屋へと運び込めば、そこには暇そうにテレビを見ている甚爾さんの姿があった。

「とうじさん、きてたの」
「……………」
「あ、すねてる」
「うるせぇ」

物凄く、分かりやすく、拗ねている。

彼は私の方を振り向かず、テレビ画面を見つめたままこちらの出方を気配で伺っている様子で、それはもう分かりやすく背中から哀愁などが漂っていた。
一応、一週間前の時点で遊びに行くことは伝えていたはずだ。何なら昨日も言った。
彼はとくに興味も示さず気の抜けた返事を返し、私はそれを確かに聞いたはずである。

なのに、この始末。
拗ねて不貞腐れ、まともな反応も無し。
貴方ね、一体幾つなんですか?それが幼女に対する態度ですか?

私は込み上げてきた苛立ちを頭を振って霧散させる。
そうだ、この人はこういう人だった。人ってか猫だった。黒くてデカい猫ちゃん。猫ちゃんなら仕方無い。だって、人間は古来より猫の奴隷なので。

一先ず気持ちを落ち着け、買って来た荷物をうんしょうんしょと運ぶ。
七海くんと灰原くんは部屋まで運ぶと言ってくれたが、私はそれを断った。流石に気を使われ過ぎたなと思ったからだ。
歩く時は歩幅を合わせ、適度な休憩を挟んでくれて、常に私優先の一日を送らせてしまった。
とても居心地良く楽しかったが、同時に申し訳無さも感じる。
たまの休みに子供の世話なんぞさせてしまって…申し訳ないったらありゃしない。二人は絶対迷惑になんぞ思ってないだろうが、だからこそ余計にだ。

二人と一緒に買った物たちをリビングまで運び込む。
持ってきたハサミを使い、ショップバッグについたテープをちょきんと切れば、いざ開封式の始まりだ。

「とうじさん、みてー」
「何だよ」
「いいから、みて」
「あー?」

袋から取り出した洋服を広げ、身体に当てて立ち上がる。
ひらりと揺れる裾には透明感のあるレースがあしらわれ、大きな白い丸襟の中央部には品良く結ばれたリボンがお上品に存在する。黒よりも少し明るめのグレーはお淑やかな色味をしており、サラサラした手触りの生地はずっと触っていたくなるくらいお気に入りだ。
七海くんが選んでくれたワンピースは、よそ行きに丁度良いシックでエレガントな一着で、私はニコニコとしながら甚爾さんに自慢した。

「ね、かわいい?」
「また地味な色じゃねぇか」
「ぼうしもね、あるの」
「無視かよ」

一度ワンピースを置き、別のショップバッグから今度は灰原くんが選んでくれた帽子を出して頭に被る。
同系色のベレー帽は後ろにリボンが付いており、可愛さ満点である。二人共センスが良い、分かってるじゃないか。

私はまたもやニコニコ笑顔でポーズを決めながら尋ねる。

「どう?」
「邪魔、いらねぇ」
「ひどすぎる」

本当に酷すぎる。貴方、本当に百戦錬磨のスケコマシなんですか???

灰原くんなんて私がこの帽子を試着した時、それはもう「そんなに???」てくらい褒めてくれたぞ。
「可愛い!凄く似合ってる!」「いつも可愛いけど、さらに可愛いよ!本当に!」とか、ずっと言ってくれたぞ。

私は浮かれていた表情をスンッと仕舞い、その場に座ってワンピースのタグを切ることにした。
せめてもの抵抗として、帽子は被ったままにする。

チョキン、チョキン。
切ったタグを一箇所にまとめ、今度はショップバッグを畳む。
気付けば出ていた小さな溜め息には、馬鹿馬鹿しさが含まれていた。
この人の機嫌に振り回される己が恥ずかしい、アホくさ。

そんな若干拗ね気味な私に無言で近付いてきた甚爾さんは、私の身体に影を落としながら帽子をパッと取ってしまう。
咄嗟に伸ばした手は空を切り、その手をパシリっと掴んだ彼はそのまま私をグッと引っ張って立ち上がらせた。

「んな顔すんな」

大きな手が頭に乗り、髪を掻き混ぜる。

「帽子なんて被られたら、撫でれなくなるだろ」

頭から頬へ下りてきた手で上を向かされる。
そして、すぐ側に来た甚爾さんの顔が私のオデコと衝突した。

チュッと、綺麗なリップ音が確かに目線の少し上から聞こえる。

ゆっくり離された顔がニヤリと笑う。私は唖然と口を開き、言葉を失った。

「……………………」
「そうだな…あと十年したら、俺もお前に服贈ってやるよ」
「い、いみがわからん……」
「もう贈られんなよ」

いつの間にか床に落ちた帽子の存在など気付かぬまま、抱き上げられてテレビの前へと運ばれる。
そのまま甚爾さんは寝っ転がって寝る体制になり、私は頭をハテナで満たしながらもとりあえず同じく横になった。

よく分からん。
全くもって意味が分からん。
分からんけど、やっぱりこの人はやり手の女タラシだということは何となく分かった。身を持って理解出来た。
でもね…アウトだと思うんですよ、色んな意味で。
私、幼女だし。幼女に十年先の約束とかね、アウトオブアウトだと思いますよ。あとデコチューも。

まあ、でも…猫ちゃんだからな。
猫ちゃんだってお気に入りの人間にチューくらいするだろ。
猫ちゃんの行動に一々意味なんて求めちゃいけないだろうし、無かったことにしておこう。


この時の私は何も分かっていなかったため、全く気にすることなくこの件はこれで終わりにした。
しかし、後に私は知るのであった…男が女に服を贈るその意味を。
そしてドン引くのであった…。

mae ato
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