3-5


自分で自分の頭を全力でぶっ叩き、挙げ句の果てには曲がり角から現れた男に勢い良くぶつかって、全治一週間の怪我を負った私に対する甚爾さんのコメントがこちら。


「お前って、あんま賢くねぇよな」


私、泣いちゃいそう。

自分の売りを簡単に否定され、白けた目を向けられた私はションボリと項垂れた。
それを見ていたその場に共に居た悟くんは即座に「真知ちゃんは何も悪くないだろ!」と反論してくれたが、私の心はズーン…と悲しみに沈むばかりであった。

現在、私は所用があって高専に来ている。
幸いなことに怪我の治りは順調で、頭のたんこぶはもう治まり、残すは吹っ飛ばされた時に出来た擦り傷と痣だけであった。
そんなわけで久し振りに会った悟くんと傑さん、それから付き添いの甚爾さんと私の四人は、何故かは不明だが空き時間が出来たからとトランプゲームをしていた。

やっているのはただのババ抜きである。
だが、これが中々に面白い。皆それぞれ個性が出ていて素晴らしい試合を繰り広げている。
今の所一位は傑さん、二位に私、三位に悟くんで…四位が甚爾さんだ。
甚爾さんは何故かジョーカーを引きやすく、さらには最後のニブイチなどは外しまくることに定評がある。
なので、現在トップスリーが主に火花を散らしていた。

だが、雑談の流れで私は精神にダメージを食らってしまったため、折角の自慢の思考力はパァとなり、順位は見事三位に転落。このゲームつまらんなぁと拗ね拗ねモードに突入してしまい、勝負は男達三人のものとなった。

「悟の言う通りだ。真知ちゃんは悪くない、悪いのはこの世界の仕組みそのものだ」
「いや、コイツが馬鹿なだけだろ」
「だから一刻も早く私は真知ちゃんと共に世界を変えなければならない…そう、私は真知ちゃんを王とした国を築き上げ、裏で全てを牛耳るポジションになりたいんだ」
「傑?どした?なんか変なもん食った?」

いつの間にやら傑さんの野望はさらなる進化を遂げていたらしい。
凄い悪い顔をしながら「真の王はこの私というわけさ…」とか言い出した傑さんは、巫山戯たことを言っている癖にまた一上がりしてしまった。

「また傑の一抜けかよ。あーつまんね、このゲーム」
「俺も飽きてきたわ、こんなんで勝った所でくだらねぇし」
「真知ちゃん、これから俺と授業サボってデート行かない?」
「わたし、にんむある」

どうやら悟くんと甚爾さんはババ抜きに飽きてしまったらしい。
惰性で続けたゲームは、珍しく甚爾さんが勝ったものの嬉しそうでは無かった。

そんな二人を見てから、傑さんは私に視線を向けて謎の微笑みを浮かべてくる。
あ、なんか嫌な予感がするぞ。私のさ冴え渡る賢き脳細胞がそう言っている気がする。
私は知っているのだ、傑さんが優等生の皮を被ったやんちゃ小僧だということを。

彼は言う、「勝てないからって…逃げるのか?」と。

「傑…今、なんつった?」
「誰が逃げるって?あ?」

売り言葉に買い言葉。傑さんの分かりやすい煽りに触発された男達の目は鋭さを増した。
一瞬にしてピリつく空気、思わず背筋に力が入る。

そして数秒にらみ合った後に、傑さんはさらなる爆撃を投下する。

「どうせやるなら、勝った人に褒美を取らせよう。そうだな……勝った人は…」

チラリ。
再び傑さんと視線が合う。
意味深なその目付きは、私の不安をやたらに煽った。
ああ、絶対面倒なことになるやつだ…。


「真知ちゃんと一日休暇を過ごせる権利を与えよう!!!」


どうやら今この瞬間、私の人権は塵と化したらしい。
自分、帰っていいすか?

私の目からは、きっと光が瞬時に消え失せたことだろう。表情も無に帰した。
しかし、何故か男達は異様な盛り上がりを見せ始める。
悟くんは「ッシャオラ!!」と気合いを入れ直し、甚爾さんは肩を回してギラついた目付きとなった。こわいよ、みんな。

「真知ちゃん、待っててね!俺が最高のハネムーンに連れて行ってやるから!!」
「真知ちゃん、必ず勝つから行きたい所を考えておいて。あと、養子縁組の件も」
「まあ、俺はいつもお前と一緒だけどな。一応勝ってやるよ」

わ、わたしのためにあらそわないでー!!!(死んだ魚の目)(息絶えた情緒)(人権問題について)


こうして、第一回禪院真知争奪戦は開始された。
多分みんな、疲れてるんだなって思った。



___




「それで、何故トランプで遊んでいたのにグラウンドが半壊するはめになったんですか?」
「わからない、わたしには…なにも…」
「僕達は向こうでストレッチでもしてようよ!ねっ!」
「ほんとうに、もうしわけなく…」

何で私が謝らなきゃならないのかってな話なんだが、それでも騒動の一要因であることは認めざる負えないので、仕方無しにしおらしい態度を心掛けながら七海くんと灰原くんに頭を下げた。

あれから甚爾さん、悟くん、傑さんの三人はやたらに真剣なババ抜きを続けていたが、勝負が拮抗してきた辺りで悟くんに呼び出しが出たため、決着は後日に持ち越された。

そして再び三者が相見えた本日。
決着は、肉体言語(闘争)にて決められることとなった。


▼ルール説明!

・術式の使用は禁止、国が終わるかもしれないからね
・甚爾さんはハンデとして三十キロの重し付き、殆ど意味無いらしいけどね
・校庭より外に出た人は負け、あと校舎壊すのも負け
・買ったらご褒美に私を一日好きに出来るらしい、人権とは


そんなわけで、拳と拳で語り合う男達は砂埃を巻き上げてグラウンドを叩き壊していた。
拳と拳が、蹴りと蹴りが、交差する度に打ち鳴らされる破壊音は人間が肉体から生み出して良いパワーの限界を超えている気がしてならない。

これでもかと愉しげな笑顔で瞳に熱を滾らせながら戦う甚爾さんは、何だか知らないがとても活き々としていた。
快活クラ…いやなんでもありません。良いものですね、スポーツとは。

フィジカルギフテッドの異名は伊達では無いらしく、彼は襲い来る生徒二人を片っ端から打ちのめし、薙ぎ倒し、放り投げてはまた打ちのめし…を繰り返している。
見て欲しい、犬がはしゃいで玩具を咥えて振り回して遊ぶように、生徒二人をブンブンと振り回してキャッキャと楽しむ良い歳した大人の姿を。
今までああやって遊べる相手も居なかったんだろうな。良かったね甚爾さん、健康的に遊べるお友達が出来て。わたし、ホッコリ。

「とうじさん、たのしそう!よかった!」
「何も良くないですよ、現実をちゃんと見て下さい。五条さんとうとう術式使い出しましたよ、止めて下さい」
「どうしよう…五条さん頭から血流して笑いだしちゃった!僕、先生呼んでくる!!」
「とーじさん、がんばれー!!」

甚爾さんが勝ってくれないと私、他二名に何されるか分かったもんじゃないので勝ってくれー!!
世界征服のシンボルにされるのも、運命をこじつけられるのも嫌なんだー!!頼むぞ、私は貴方に賭けてるんだー!!

「真知さん、応援してる場合じゃありませんよ。ここも危ないので退避しましょう」
「ななみくん…わたしのことは、ちゃんづけでよんで」
「真知ちゃ………いや、今はそんな場合ではなく…あ、」
「あ、」

刹那、膨大な呪力が膨れ上がったのを感じ取る。
私は瞬間的に七海くんの手を力任せに引くと、バランスを崩した彼の身体を支えるように出現させたイッカクの骨格標本で二人同時にその場を空へ向かって素早く離脱した。

骨の背に跨り七海くんを支えながら地上の様子を見る。わ、わあ……こりゃ酷い。
地上は、見るも無惨に地獄絵図そのものと化してしまっていた。

抉れた大地からは煙が濛々と立ち込め、今なお余波の呪力が迸っている。
そして、そんな荒れ果てたグラウンドで一人…悟くんは大声で叫び散らかした。


「俺が……真知ちゃんと、デートに行くんだあぁああああ!!!!!真知ちゃんに応援されて特別な感情を向けられる俺以外の人間のこと、許せねえよ…!!なんで…どうして……俺が、俺だけが真知ちゃんの真の孤独を知る男なのに…!!!」


「などと申していますが、身に覚えは?」
「ないです、こわい」
「まあ、疲れているみたいなので…」
「ろうどうはアク」
「そう、クソです」


あれ、甚爾さん生きてるのかな…傑さんは辛うじて見えるけれど、あの人も何か叫びながら悟くんに向かっていったな。

私は七海くんと顔を見合わせ、一つ頷き合う。

「このしょうぶ、ぜんいんアウト」
「次の休みは私と灰原と出掛けましょうか、あの人達は放っておいて」
「そうだね、はんせいさせましょう」
「ええ、絶対に」

こうして我々は次の休みに美味しいご飯を食べたり、お店を見たりする約束をしてその場から撤退した。
三人がどうなったかは知らない。
でも、私は七海くんと少しだけ仲良くなれた気がするので満足です。七海くん、綺麗だからすき。

mae ato
×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -