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七海くんと灰原くんと合同で任務に行って、ボコボコのズタボロになって帰って来た私は、色々あった後に………知らないマンションに監禁された。

ここで簡単なあらすじ!

賢い幼女こと禪院真知は、実の親である禪院扇に『お前絶対うちの子じゃないだろ』的な扱いをされ、居辛くなってしまい実家を離れることとなった!
そして愉快な仲間達と毎日楽しく暮らしていた!
そんな時舞い込んできた、事前情報では二級程度の呪霊を祓う任務にて、私と七海くんと灰原くんは推定一級レベルの呪霊によってピンチに陥り、前日に徹夜作業で新しく完成させた新たな骨格標本…『ビッグエレクトロフォルス・エレクトリクス(巨大電気ウナギ)』を使って何とか撤退が出来たのであった!

しかし!七海くんも灰原くんもかなりの重体、私も高専に着いてから二、三日の記憶は不明!
そして目覚めた私は見覚えの無いマンションでの監禁生活!
いったいこれから、どうなっちゃうの〜!?


「まじ、ここ…どこなの……」


脱出ゲームの主人公ってこんな感じなのかなって思った。
とりあえずベッドを出て、素足をペタペタ鳴らしながら寝室を出る。
リビングまで行けばそこには誰も居ないようで、生活感の感じられない、家具だけがキッチリ揃ったモデルルームのような部屋があった。

テレビ、ソファ、テーブル。
クッション二つ、毛足の長いカーペット。
ダイニングキッチン、クリーム色のカーテン。
それから、コンビニの白い袋。

袋の中を覗けば、中にはお饅頭が入っている。
誰が持って来たのだろうか、ふむ…この事件、中々に手応えがありそうではないか。

私は探偵になった気分になって、顎に手を添えながら家の中をぐるりと見て回った。
しかし、ぶっちゃけこれと言って何も無かった。ビックリするほど何も無かった。無駄に体力を消費するだけだった。とても悲しい。

「しうさん、とうじさん…めぐみくん……どこ…」

見知らぬ環境で独りぼっちとは案外効くもので、私は身体年齢も相俟って、身体だけでなく心まで弱らせていった。
気付けばグスグスと鼻を啜りなが涙を零し、玄関で誰か来やしないかと待ち惚け。
だが、待てど暮らせど誰も来る気配は無く、泣き疲れた私はとうとう玄関で寝始めた。

冷たくて硬い床も気にならない。
それくらい、孤独は私の心と身体を蝕み苦しくさせた。
独りは嫌だ。
異物だとは痛いほど理解しているから、尚更独りになるのは嫌だった。

こんな時に限ってボンヤリと遠い前世のことを思い出す。
そういえば私、誰かに認められたくて研究者になったんだっけ。
でも結局、こんな所で独りぼっちで…。

ああ、せめて死んだら誰かと同じ墓に入りたい…。




___





マンションのすぐ側にあるコンビニから帰って来た甚爾が玄関を開けると、そこには小さな子供がコロンと落ちていた。
膝を抱えて丸まりグスグスと鼻を鳴らして泣く姿を見て、靴を適当に脱ぎ散らかし、素早く抱き上げる。

「おい、何してんだこんなとこで」
「わたし…こどくしするんだぁ……」
「しねぇし、させねぇから泣き止め」
「オヨヨヨョョ………」

妙な泣き声を挙げながら自分にしがみつく真知に、甚爾は「そういえばコイツ、まだ子供だったな」と思い直した。

本人自体も「じぶんは、かしこい」と胸を張って言っているくらいには賢く、聡明でしっかりとした、落ち着いた立ち振る舞いの出来る人間なので忘れがちだが、この小さくて未だに舌っ足らずな少女はまだ六歳ちょっとのおこちゃまである。
何なら、甚爾の息子と同じ学年である。
その事実を甚爾は時たま忘れるため、このようにまだ子供な真知は周りの配慮不足で悲しい思いをすることが極稀にあった。

そんなわけで、コアラのように自分に引っ付き続ける真知を片手に、甚爾は買ってきた物を机に並べた。
100%リンゴジュース、サラダ、パスタ、おにぎり、お饅頭、プラスチックのスプーンとフォーク……それらの中から紙パックのジュースを手に取ると、慣れた手付きでストローを刺して真知に手渡す。

「食いもん買って来ただけだ、何処も行かねぇから離れろ」

未だグスグスと鼻を鳴らしながらもジュースを受け取った真知は、一口飲むとやや落ち着きを取り戻す。
息を吸って吐いて、吸って吐いて。
ぐずぐずドロドロになっていた思考を平らにし、意識をハッキリさせてから真知は側に居る人間を見上げる。

「とうじさん、あの…」
「飯食うか?」
「そのまえに、じょうきょうせつめいを…」
「飯食いながらで良いか?」

腹減ってるんだな、この人。
思考だけでなく瞳まで平べったくした真知は、落ち着きを取り戻した頭の中で淡々とそう思った。

甚爾はコンビニで温めて貰ってきたらしきコンビニ弁当を開封すると、行儀悪く割り箸を口に咥えて片手で割り、大きな口で勢い良く食べ始めた。
食べ物を咀嚼する度に動く口元の傷や、飲み込む度に上下する喉を観察しながら真知はジュースを啜る。

やがて、ひと心地ついたらしい甚爾はペットボトルのお茶片手に、かなり端を折った説明をし出した。

「お前の…あのデケぇ骨、あれ時雨がクソ邪魔だっつって部屋新しく借りた」
「もうすこし、ていねいに」
「ああ、金の心配はすんな。五条の坊が出したみてぇだから」
「かいわをするどりょく」

説明終了。

これらの情報のみを頼りに、真知は事件の真相を読解しなければならない。
しかし、真知はこれまで甚爾による"短くし過ぎた話"を何度も聞き、何度も読解した経験がある。そう、彼女はバウリンガルならぬトウジンガル、これくらいの読解作業は朝飯前だ。

さて、まずは順序立てて整理していこう……


【新連載:名探偵だぞ!真知ちゃん】


…事件はあの日現場で起こった。

そう、遡ること数週間前…真知はヘラヘラしながら、自分の面倒をよく見てくれる大人二人に、今まで無茶をしてきたことを暴露した。
そして、暴露してから数時間後…そこには色々吹っ切れた幼女が居た。

真知は一人思う。
バラしたんだから、隠さず創れば良くね?と。

そんなこんなで、時雨の住まうアパートは骨塗れになった。
博物館かコレクタールームかというような具合で所狭しと陳列する骨、骨、骨。
空間を活かしたオシャレな棚には小鳥や魚の骨がびっちり並び、ベッドサイドには謎の頭蓋骨が鎮座。テレビの両サイドには馬の脚の骨が立て掛けられ、リビングには巨大な何らかの動物の骨格が放置される始末。

日に日に骨屋敷となっていく自分の家に頭を抱えた時雨は、真知には作業部屋とストッパーが必要なのだと考えた。
そして、甚爾から話を聞いた五条が出資者となりマンションが買い与えられ、甚爾は面倒に思いながらも様子見係りに任命されたのだった。


つまり……犯人はそう、真知である。

大体真知が悪い。自業自得。そろそろ少し反省した方が良い。


【名探偵だぞ!真知ちゃん 完】


「わたしが…わるかったかも、しれない…」
「ちなみに夕方六時が門限だ、時間になったら時雨のとこ帰れよ」
「えっ」
「ガキが一人で居たら不味いだろ」

それ、貴方が言うんですか???
真知は胡乱な目付きで甚爾を見た。しかし甚爾は全く気にした様子も無く、空になったコンビニ弁当の容器を雑に袋に戻した。

暫しの沈黙を挟んだ後、真知は思い出したかのように「そういえば、ななみくんたちは?」と尋ねる。

「知らねぇ」
「わたしのかわりに、ようすみてきてよ」
「ダリぃ」
「わたしいがいのこどもにも、きょうみをもとう」

ねぇねぇ、ねぇねぇ、みてきてよ〜。
そんな気持ちを込めて小さな手で甚爾の腕を叩いたが、甚爾は話は済んだとばかりに欠伸を一つして、その場にゴロンと横になった。
彼は自分の三大欲求に忠実なので、"真知の面倒を見る"という仕事を預かりながらも、いつものようにぐーたらスヤスヤするつもりでいた。

真知はそれを一瞬咎めようとした。もっとちゃんとしなさいと。
けれど、すぐにやめた。何故なら、甚爾はとても眠そうにしながらも、真知が食べ終わるまで起きていようとしているのを察したからだ。
だから、仕方無しにサラダとおにぎりに手を伸ばす。
大きくなったらちゃんと自炊しようと思いながら。

「いただきます」
「ちゃんと食えよ、お前いつまで経っても少しも背ぇ伸びねぇんだから」
「たべてますぅ〜」
「草ばっかじゃなくて肉食え、肉」

甚爾はくあっともう一度大きく欠伸をし、それから頭の位置をずらして真知の脚に頭をくっつけた。
その仕草はまるで、犬が好きな人間に身体の一部を触れさせながら寝る仕草のようで、真知は何となく幸せを感じ取り、自分から少しだけ身体を寄せた。


こうして、禪院真知には工房が出来た。
骨だらけの異様な工房には、一匹の黒い猫だか犬だかも住み着いている。
二人のささやかで穏やかな幸福は、そこにあった。

mae ato
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