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 少女にとって少年を小馬鹿にすることは、三度の飯の次に楽しいことなのだ。

 だから、少年は少女の手を掴んで無理矢理引き剥がす。

「うるさいわ」

「わっ。ま、そんな反抗期まっしぐらなアンタに朗報やで?」

 嘘泣きがバレても全く気にしない少女は、携帯をパチンと音をたてて閉じた。

 さっきから頻繁に触っているので、誰かとメールでもしているのだろう。相手は授業中じゃないのかと、少年はどこかズレた心配をする。

「できれば聞きたないねんけど。聞かなアカンのやろな」

 良い知らせと聞いて、良かった試しがない。

 しかし、少年は諦めて尋ねた。それに対し、少女はにんまりとして両手を上げる。

「なんと、今日の晩ご飯はすき焼きです。やったね。ドンドンパフパフ」

「……普通に言われへんのか。てか、何でお前が俺ん家の晩ご飯知ってるんや」

 予想の斜め上をいく知らせに反応が遅れる。

 いい加減、相手をするのがうっとおしくなってきた。そんな少年などお構いなしに、少女は可愛らしく小首を傾げる。

「弥生ちゃんが今日の晩ご飯何したらえぇ? って聞いてきて、すき焼きって答えたから。あ、私も食べてってえぇねんて。弥生ちゃん優しいー」

「いや、待て。だからなんでそんなんできるんや」

 嫌な想像しかできず、少年の首筋を汗が伝う。

 そして、少女は今日一番のめちゃくちゃ良い笑顔で答えた。

「弥生ちゃんとメル友やからに決まってるやん。アホやな」

 そこで少年の忍耐力は、限界を迎えた。

「何勝手に人のオカンとメル友になってんねん!」

 ビシッとキマったツッコミ。手の角度もタイミングも完璧で、少年は自分に陶酔する。

 しかし、無情にもそれで“勝負”は決まった。

「ん? んん?」

「んがっ! いや、さっきのは」

「ハハハ、私の勝ちやな」

 ニヤリと効果音が付きそうな笑みを、少女は浮かべた。マンガの悪役も真っ青の悪人顔だ。

「なぁ、待ってや。俺ら友達やろ? 魂で繋がったソウルメイトやろ? な」

「何寝ぼけたこと言ってんねん。魂なんてもん存在せぇへんわ」

 必死ですがりつく少年を、少女は切って捨てる。

「わかった。なら、もうひと勝負しよや。まだチャイム鳴ってへんからえぇやろ? なぁなぁ」

 そこでタイミング良く、授業の終わりを知らせるチャイムが鳴り響いた。

「あら残念。タイムアップやわ。何奢ってもらおう? やっぱ日替わり定食かなー」

 スキップしながら教室を出ていく少女の後ろ姿を、悲痛な表情の少年が追う。

「アホ! それ、食堂で一番高いメニューやろ。せめてアイスにしとけ!」

「ケチ臭いこといいなや。小さい男は嫌われるでー」

 ギャアギャア騒ぎながら、二人は廊下を駆けていく。それは次第に、昼休みの賑わいの一つとして紛れていった。

 そして二人が出て行った教室では……。

「えーっと、課題のプリント出してから行って欲しかってんけど……。まぁえぇわ。うん」

 委員長がこんなことを呟いていたとかいないとか。


- おわり -



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