三話

彼女の呪具、ナイフには呪霊が巣食っている。
もちろん呪霊対策の呪霊ではあるためただただ呪霊が切れるナイフのだが、これは呪霊殺しの呪霊なのだ。
呪霊に殺され、呪霊を殺したくて仕方がない者たちの呪いを集めて作られた呪具。

そのため呪霊に反応して動く。
呪具が呪霊に引き付けられる性質を利用し、疑似こっくりさんのような形で震える呪具を地図に突き当てることによって、その場に移動することが可能だ。
原理は知らない。

少女はなんとなく磁石のようにぎゅーんと引き合う性質があるのではないかと、思っている。
理由は、ものすごく髪の毛と服装が乱れるからだ。
着地?時は特に周りに影響はなく、呪力で体を守っているため大丈夫なだけで風圧で恐らく首が吹っ飛んでもおかしくないが呪力を解くような実験は試すに試せないのだ。
あまりの乱れっぷりに髪はばっさり切った。
ポケットには櫛と鏡が必需品である。

使用には条件が複数ある。
まず呪具に呪力を込める必要がある。
飛べる場所は呪霊がいる場所に限る。
地図はかなり細かい位置が書かれている必要がある。
屋外であること。
移動できるのはナイフを触っている者とその者を触っている者のみ。
移動できるのは半径50km前後。

少女はこれを駆使して日本全国を頑張って移動しているのである。
移動場所に必ず呪霊はいるのですぐに逃げる必要があるだけでなく、人に見られる可能性があるのが一番面倒だ。
人目がある場所には飛びたくないため、なるべく人気がないだろう場所へと移動し、またそこから移動を行う。
呪力は吸われるため、縛りは多いが少女にはもってこいの能力だ。

なにより移動費が浮くから便利。

また、呪霊を殺さずに残しておくことで、またそこに戻ってくることも次回使用することができるのも楽だ。
場所によっては祓ってもすぐに呪霊が発生するような場所もある。
そういった場所を駆使して彼女は日夜長距離の移動を可能としている。

愛着もある。
父が私に残してくれたものの一つであり、たった一人の自分の本性を知る者なのだ。
者であるかは別として。

本日は殺しが終わったら早めに寝よう。
そう決めて、彼女は太もものホルダーにナイフを戻す。






「う……」
血が広がっている。
足元でうめき声をあげながらうずくまる術師を見て少女は、いまだに迷っている。
足がついていない今、この世界で普通の人間として生きていくのか、このまま呪術師を殺しながら呪術会の撲滅を謀るか。

しかし行動は止まらない。
衝動は止まらないのだ。
と、いうよりもここまで頑張ってきているのだからなるべく一人でも多くやっておきたい。

「……さて、等級がいくつなのか教えてもらえますう?」
血だまりに伏してはいるが、急所はなるべく外したため口はまだ利けるはずだ。
しかしだんまりの男を一瞥して、携帯を取り上げる。
手には手袋をしている。
安いビニール手袋だが制服も含めて飛び散る血を一滴も浴びてはいなかったが、携帯を取り上げる際手袋に血がつきぽたぽたと落ちていく。

カコカコと操作を行い、写真の一覧を見ていく。

「……ふうん。彼女がいるのねえ。」
にこりと少女が笑うと、男は絶望したように口を開きだす。

「…………3級だ。」
「なるほど、3級でこのくらいなのかあ。彼女も呪術師?」
「違う。彼女は関係ない、です。お願いします見逃してください。」
もはや指と口などの小さい部位しか動かないようだが、意思も意識もはっきりしているようだ。

「なら殺さないので安心してください。」
そういって携帯の連絡先一覧をばらばらと確認して、呪術師に関連していそうなものの写真を撮っていく。
GPS機能がある可能性を考えて携帯は持ち帰らない。
メールや電話などは送信履歴があるため写真に撮るほうが手っ取り早いのだ。
基本自分にたどり着きそうなものに手は出せない。
面倒ではあるが、これが一番バレないだろうやり方だ。

一通り写真を撮り終わったところで男を見るとすでに息がなかった。
携帯は元の場所に戻し、ひとまずここを出なくてはと外にいるであろう他の呪術師を素早く殺した。
窓と言ったか、補佐をするような弱い呪術師だ。
この程度はだまし討ちなど不要だ。
死体はそのままに家に帰った。

これで何十人の術師を殺したのだろうか。
なるべく痕跡は残さないよう、人気が少ない場所を選んで殺しまわってすぐに逃げるようにしているためいい情報はあまり手に入っていない。
こういった殺した術師の携帯から連絡先をたどり、知り合いづてのように公衆電話から連絡をして呼び出したり、呪霊があつまりそうな場所をまわることしかできていない。
一週間のやそこらでは数人殺すのが限界だ。

電話によるこの戦法もそろそろ使えない。
もしかしたらすでに電話による呼び出しに関する情報が回っているかもしれないからだ。
いっそのことメリーさんのように呼び出したほうが早いかもしれない。

しかし、東京と京都に学校があり、そこに未来ある術師が生活していることは知っている。
どちらも学校自体がどこにあるかはわからなかったが、殺してきた術師が来ているものと似ている制服の形を確認した。
そのため、おおよその地域はわかった。
金を使ってちょっとした余興も用意した。
なるべく若い人間をつぶしていき、徐々にレベルを上げていくほうがよいだろうと踏んでいる。

年齢が若い、というのはそれだけで躊躇してしまう可能性が無きにしも非ず。
やはり普段学友らに囲まれている身であるため年齢が近い者たちはなるべく早く殺しておいたほうがよい気がするのだ。
心配事は早めにつぶさなければならない。

ここから近いのは東京の方のため、土日を使って獲物を狩りに行こう。
血に濡れた手袋をジップロックに入れて、帰路に立つ。



少女は学生だ。
平日は基本夕方以降しか行動ができない。

父の言葉通り、道はあるほうと公共の場では優等生を演じている。
運動は得意なので問題ないが、宿題は必ずやって、テストは高得点を取って、先生と学友に媚を売らねばならない。
他人に媚を売るのは楽だ。
しかし自分が出せない、というのはあまり好かない。

そう思うと、やはり術師を殺す未来が頭を浮かんでしまうが金銭面が心もとない。
仕事ではないのでお金は稼げないのだ。
皆の遺産を食いつぶしながら生きているこの状況、なんとかせねばならない。
少女は現在、父親が海外に出張中ということになっており、一人暮らしを問題なく行えているが、今後を考えると心配事は多い。

それに少女には殺しておかねばならない男がいる。
改めて考えると服装があまりにラフだったことを考えると、しかるべき機関に属していないように見えたので探すのは逆に困難かもしれない。
どちらの道に進むとて、あの男だけは殺しておかないといけないと考える。

悲しいことに少女の未来は暗い。
しょうがない。
彼女は唐突に生まれ落ちた魔王なのだ。
いつだったか父親が買ってくれた童話集を思い出した。

あの物語たちのようにハッピーエンドが欲しい。

少女はなんだか読み返したくなって誰もいない自宅の本棚を漁った。

















「最近、呪術師を殺しまわっている者がいるらしい。お前ら気をつけて任務に当たれ。」
校舎から見送りのために出てきたガタイの良い男が話しかける。

「夜蛾せんせー心配してんの?めっずらし〜俺ら最強だからモウマンタイだよ。」
にやにやと悪態をつく五条悟と家入硝子はこれから仕事として現場に向かう予定だ。

「……呪詛師って言わないあたり、何か引っかかりがあるんですか?」
家入は踵を返して質問をした。
「術式だとか呪霊ではなく刃物で殺されているらしい。普通の刃物でな。」
「はあ?普通の刃物?通り魔じゃねえの?」

「……任務にあたっていた呪術師と窓が各地方で相次いで殺されていてな。犯行に使われたナイフはどれも同じもの。電話で呼び出されたと向かった先で殺されている例もある。」
「悪意を持って誰かが呪術師を狙っている、ということですか。」
「ああ。殺された中には処刑対象の呪詛師も加わっていることから、呪術を使えるものを無差別に殺している可能性があると上からは報告されている。」
夜蛾はため息をつく。

「ああ、だから今日は一応私が五条についていくのか。珍しいと思った。」
「そうだ。家入はなるべく車で待機、五条が基本は任務にあたるように。」
そういって、すでに到着している車を指さす。

「本当は夏油にも出てほしいが、学生を酷使しすぎるとあまりよろしくないからな。情報が入るまで3人を交代でペアにして出すのがいいと思ってな。頑張ってきてくれ。」
「うい〜……じゃあ傑寮いんのか?」
「傑なら新宿行ったよ。私が落とした携帯を拾ってくれた人んとこ行ってくれるよう頼んだから。」

「ああ硝子の携帯確かに今日一回も見ていないや。まあ大丈夫っしょ、変な奴がいても俺がちゃっちゃと片付けるし。」
笑う五条に夜蛾はまたもため息をつく。

「んじゃいくぞ。」
「うん。」












がやがやとした街の中、少女の元に黒髪の学生服を着た男が駆け寄る。
「ごめんね、待たせてしまって。」
「いえ、さっき来たばかりですう。」
少女がにこりと笑うと、男も笑った。

「初めまして、夏油です。友達の携帯拾ってくれてありがとう。」
「どうも、初めまして。」


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